「メイズ・ランナー」80点(100点満点中)
監督:ウェス・ボール 出演:ディラン・オブライエン ウィル・ポールター

絶妙なバランス感覚

高い壁に囲まれ、謎だらけの外の世界を渇望する世界観が「進撃の巨人」とほんのちょっぴり似ている映画版「メイズ・ランナー」は、アメリカにおけるティーン向けミステリアドベンチャーの大本命だ。

ティーンエイジャーのトーマス(ディラン・オブライエン)が目を覚ますと、高い壁に囲まれた広場だった。そこには同じような境遇の若者が大勢おり、すでに相当期間の共同生活を送っていた。なぜか過去の記憶がない以上に最大の問題は、唯一の出口と思われる巨大な扉の向こうには毎夜構造を変える巨大迷路があり、扉が閉まる夜の間にそこに閉じ込められてしまうと、生還の可能性が今のところゼロ打倒いことだった。はたしてトーマスは迷路を抜け、記憶を取り戻し、外の世界に脱出できるのだろうか。

あまりに面白すぎて、こりゃもう進撃はいらないや、おなかいっぱいと思ってしまうほどよくできたフィクションドラマである。

系統としては蠅の王、クリムゾンの迷宮、バトルロワイヤルといった不条理風味のサバイバル劇だが、アメリカ人にとっては大ヒットした「ハンガー・ゲーム」二匹目のどじょうといったところ。そして大事なことに、このどじょうは下手をすると一匹目よりも優れている。

まずうまいなと思うのはキャラ立ての妙。たとえば韓国系のある若者がでてくるが、こいつが序盤にだらしがない逃亡の醜態をみせることで、まずは主人公との格付けをすませるあたりがいい。

一度それをすませておけば、あとはこいつがいかに活躍しようと主役を食うことはない。それどころか、活躍すればするほど主役の存在はなにもせずともアゲられていくという寸法だ。

こういう、基本をわかったストーリーテリングがこの映画の強みで、その後は数々の謎をちりばめ、観客を飽きさせずに突っ走る。

預言者のように必要アイテムを送り込んでくるエレベーター。だめかと思っていたやつが、意外にもコツコツと謎解きを積み上げてきたときのお前やるじゃないか感、初見ですぐにわかる大事そうなアイテム等々……。冷静に見れば苦笑してしまうような数々が、ピタピタとはまっていく快感につながっている。

迷路内での戦闘シーンはとてつもない恐怖と迫力に満ちているが、敵の血液はまっ黒くろすけの安心仕様。長年男だらけの水泳大会を繰り広げてきたゲーテットコミュニティに、無防備な美少女が放りこまれても誰一人いけないコトをしようともしない健全仕様でもある。

気が弱かったり影響されやすいティーンエイジャーに配慮したこうした作りも、親の世代から見ると好感度が高いところである。

こうした安全仕様やご都合主義の数々が、まるで子供っぽさを感じないのは先ほど書いたストーリーテリングのうまさなど、作り手に高い技術がある証拠である。

変革の時には保守的なリーダーは役に立たないどころか害になるという、昔ながらのテーマを踏襲している点も安心感がある。どこかの国の国民にとってはタイムリーでもあるだろう。

これだけのものを見せられ、あのようなところでエンドロールを見せられて、しかも続編が決まっているとのニュースまで流しておいて、聞くとそいつはこれからつくるという。

うますぎる前菜に満足して次の魚料理の皿はとシェフに聞いたら、これから釣りに行ってくるよと満面の笑みで答えられたようなものである。

たのむから、先に作って準備しておいてくれよと、無茶な要望を提出したくなる。それほどに面白い、子供たちのサバイバル謎解きドラマ。小学校最終学年、もしくは中学生くらいから楽しめるだろう。今、そのくらいの息子さんがいる親は幸運である。勇気を持って映画館にお出かけのほどを。

メイズ・ランナー (角川文庫)
原作小説です。
蠅の王 (新潮文庫)
この手の元祖的存在か。


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