「パパ、遺伝子組み換えってなぁに?」40点(100点満点中)
監督:ジェレミー・サイファート

かわいげのない無知

先月、WHOの専門組織がグリホサートに発ガン性のおそれがあると発表した。グリホサートとは遺伝子組み替え作物を推進してきた大企業モンサントの看板商品ラウンドアップのことで、彼らはこの農薬とラウンドアップ耐性作物のペア売りで莫大な利益を得、市場の独占を広げてきた。

そんな彼らにとって、GMOではなく、もともとの事業の大本たる農薬の危険性を指摘されたのはショックだったろう。これまで莫大な資金による米国政府への影響力をバックにそうしたマイナス面を押さえてきた彼らの、これは終わりの始まりなのか。

そんな緊迫した状況下の昨今、「パパ、遺伝子組み換えってなぁに?」の生ぬるさはいかがなものだろう。

環境活動家でもある監督=お父さんが子供を授かり、食生活を見直したときに出会った「遺伝子組み替え作物」。え、なにそれ、安全なの? うーん、よくわからないから調べてみよう!

ということでこの映画を作ったということになっている。だから本作は、遺伝子組み替え食品など知らなかったような人が、え、あれもこれもGMOが含まれてるの? 知らない間に食べてたの? やだー、しんじらんなーい、と驚く様子から展開してゆく。

私のように、長年この社会問題に注目し続けてきた身からすると、このわざとらしさにはうんざりである。

いったいおまえたちは何周遅れでそんなことをやっているのか。これでは15年前からなにも進歩していないではないか。

だいたい、もともとお前たち北米の人間が、この問題の本質を何一つ理解せず、子供だましのプロパガンダにだまされてモンサントに市場の独占を許したがために世界中が迷惑しているのではないか。

今更、国立公園のにじますの餌にGMOが混じっていたからといって驚いている場合か。まったくもって偽善も甚だしい。今すぐモンサントの弁護団に身ぐるみはがれた世界中の零細農家に土下座して謝ってこいといいたい。

だいたいこの映画監督は、GMOを食べるのは怖いなどといいつつ、子供に砂糖たっぷりのアイスクリームやマクドナルドのジャンクフードを与えている。まずはそっちを何とかしたらどうなのか。こんなバランスの悪いことをやっていたら、GMO反対などといっても説得力はない。

もっとも、いくらなんでも活動家なら、さすがにそのあたりはわかっているだろう。彼はあえて無知なふりをして、知識ゼロの人のための啓蒙映画を作ったのだと信じたい。

考えてみれば、遺伝子組み替え作物の話題はあまりに進行が早く、情報もいれかわるため途中乗車は難しい。

子育てをきっかけに勉強しよう、というのは共感しやすく、取っつきやすいイメージを与えるし、そう考えると決して悪くはないアイデアなのかもしれない。

ただそれならば、言葉の羅列ではなくもう少し映像で理解させる点に力を注ぐべきだ。美しい風景を何気なくつなぎのように挟む演出が目に付くが、必然性が感じられないために退屈に感じる。吹き替えならともかく、字幕でみるとよけいにそうだ。

いずれにせよ、TPPで日本もGMO汚染されるのが目前というせっぱ詰まった状況で、いまさら「ゼロから勉強し直しまぁす」的な映画を見ると、愕然とするといわざるを得ない。

英語圏の大衆とは、それほどまでに無知なのか。この進歩のなさに、逆にバイテク企業の強固なメディア統率力、ロビィ活動の激しさを感じてしまう。

結局のところ、これも日本でいう原発問題と同じで政府がリーダーシップを持ってストップし、自国民を守らないとどうにもならない。GMOの場合は瞬く間に伝統農業が破壊され、食の安全性が犠牲になる。

その意味では、コメを筆頭になんとか瀬戸際でGMO栽培をくい止めている関係省庁は、ノーガードで原子力ムラに国土と国富を献上し続けた通産省よりはましなのか。

そのあたりを、今度は日本の映画人にも解き明かしていただきたいところである。

自殺する種子―アグロバイオ企業が食を支配する (平凡社新書)
これは本当にいい本です。説得力、わかりやすさ、ともにある。決定版といっていいかもね。
日本では絶対に報道されない モンサントの嘘 ―遺伝子組み換えテクノロジー企業の悪事?
TPPの交渉担当者もモンサント関係者というのは有名です。


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