「王妃の館」35点(100点満点中)
監督:橋本一 出演:水谷豊 田中麗奈

アイデアは面白いのだが

「王妃の館」は美しいパリの街で長期ロケをおこなった日本映画であり、うまく作れば心に残る一本になることができたはずだが、いくつか至らぬ点があるため、平凡な疑似観光ムービーにとどまってしまった。

王妃の館と称される高級ホテル「シャトー・ドゥ・ラレーヌ」のスイートに泊まれるツアーに参加した売れっ子作家・北白川右京(水谷豊)。だが、ツアーガイドをつとめる旅行会社の社長(田中麗奈)は何かそわそわしている様子。実は彼女は、同じホテルに同じ日程で、別の客をダブルブッキングしていたのだった。

「王妃の館」最大の敗因は、このダブルブッキングツアーの設定を生かしきれなかったことにつきる。

経営危機の旅行会社が昼と夜で別の客を一流ホテルに泊めて料金をダブルどり。はちゃめちゃだが、あったらおもしろいと思わせるうまいアイデアである。

だからせめて前半は、もう少しこの「いつかバレてしまうかも」の一本やりで思い切り笑わせるとか、スリルを味あわせてほしかったところ。

いくらでもそのためのネタは浮かぶだろうし、良質なスリラー風味にも仕上げられたことだろう。だがその期待はかなえられぬまま、話が別展開する後半にさらりとつなげてしまった。

これはまったく惜しい。天然女子ばかりでいじりほうだいだったのに、格好付けてまじめな世間話だけして終わってしまった合コンのような、後悔すら感じるもったいなさである。

これではキャラクターへの共感度が十分あがらない。おまけに重要な劇中劇の内容と、現実とのリンクもいまいち弱いから、せっかくの感動オチが他人事に感じられてしまい、いまいち身が入らない。

そもそもあの劇中劇のオチを、フランスの歴史や文化をよく知らない人はあまり理解できないのではないか。そこんところを、前半の観光ムービーの間にわかりやすく観客にレクチャーする必要もあっただろう。

主演の水谷豊はインパクト絶大な狂言回しとして、しっかりと仕事をしていた。それだけに、キャラクターと設定のどちらも生かしきれなかった演出が残念であった。

王妃の館〈上〉 (集英社文庫)
浅田次郎による原作小説。
パリのプチホテル (私のとっておき)
ちなみに映画のモデルとなったのは「パヴィヨン・ドゥ・ラ・レーヌ」というホテルだそうです。


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