「シンデレラ」70点(100点満点中)
監督:ケネス・ブラナー 出演:ケイト・ブランシェット リリー・ジェームズ

安心感の塊

絶賛公開中『イントゥ・ザ・ウッズ』の口直しことリハビリムービーとしてのポジションを期待される「シンデレラ」は、なるほどディズニーイズムの権化のようなプリンセス映画に仕上がっている。

優しかった父親が他界し、財産も屋敷も乗っ取られてしまったエラ(リリー・ジェームズ)。彼女はいじわるな継母とその連れ子二人にシンデレラ(灰まみれのエラ)と呼ばれ、あたかも召使のように扱われていた。そんなとき、エラは森で青年キット(リチャード・マッデン)と運命的な出会いを果たす。

音楽と衣装に相当力を入れたのがわかる、見た目も中身もまさにディズニーのお姫様映画である。

最近流行のブラックな自虐ネタにも走らず、アナ雪のような定石崩しにも手を出さず、昔ながらのファンが安心してみられるディズニー映画を目指したわけだが、この辺りはさすがのバランス感覚というほかない。

すべてが予定調和で、ウォルトさんが目指した夢の国の物語らしく、ネズミも決して痛い目には遭わない。『イントゥ・ザ・ウッズ』があれだけいたいけなファンの夢をぶちこわしているのだから、これに救われる人も少なくあるまい。

絵的に美しいのはアニメ版でも評判のよかった衣装替えの場面。ぼろ服姿の灰色のエラは、ここで美しい女性へと変貌する。

この場面、せっかくの形見のドレスを跡形もなく分子変換してしまうという荒技で、どう考えても恩知らずな気もするが、リリー・ジェームズは満面の笑みでそんなひねくれ客の懸念を吹き飛ばす。

これまた『イントゥ・ザ・ウッズ』のせいで不倫大魔王の悪名高い王子様も、父子の感動ドラマがしっかりとキャラの厚みを増しているおかげで共感度抜群。夢見る女の子だったら誰もがきゅんきゅんしてしまうことだろう。

それにしても、舞踏会参加から王子様の心を奪うまでの流れは、今でいう婚活そのもの。時代は変われど、やっていることは何の違いもない。ここに集まる国中の娘っ子たちの必死なアピールは、映画をみている独身女性すべての投影である。

そして、シンデレラはいうまでもなくその最大の勝ち組となる。それを見る誰もが、彼女こそ自分の未来だと信じ、この夢の物語を楽しむ。

これは若い男たちが波多野結衣とか上原亜衣のDVDを見て、相手の男優に自分の股間を投影してつかの間の幸せを得るのと同じ。つらい現実を忘れるには、昔ながらのディズニー映画がいちばんということだ。

それにしても、私のような男にとっては森でナンパして一目惚れ、のご都合主義にはどうしてもついていけないものがある。何度も言うが『イントゥ・ザ・ウッズ』の不倫王子をみたあとではなおさらである。オタクの映画に汚されたこのピュアな心をいったいどうしてくれる、ディズニーさん。

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