「シェフ 三ツ星フードトラック始めました」70点(100点満点中)
監督:ジョン・ファヴロー 出演:ジョン・ファヴロー ソフィア・ベルガラ

キューバ万歳

映画「アイアンマン」などの監督や出演で知られるジョン・ファヴローだが、「シェフ 三ツ星フードトラック始めました」では製作・脚本・監督・主演をつとめている。いかに彼がこいつを作りたかったのかがわかるというものだが、なるほどその思い入れも理解できる、たいへん気持ちのいいロードムービーである。

シェフのカール・キャスパー(ジョン・ファヴロー)は、創意工夫の余地がないマンネリなコース料理ばかり作らされてオーナー(ダスティン・ホフマン)と大喧嘩してしまう。店にいられなくなった彼は、中古のフードトラックをなんとか入手してサンドイッチの移動販売をしようともくろむが……。

オンボロトラックを父子が自分たちの手できれいにし、改造して立派な移動販売車に仕上げる。そのまま全米横断しながらキューバサンドを売り歩く。仕入れや注文とり、計算等々、大人たちがいかに苦労して生活費を稼いでいるか、少年たちに伝えるのにぴったりなお仕事ムービーでもある。

……といいたいのだが、ちょいとエッチな歌だとかが流れる場面があるので、父子でほのぼの鑑賞とはいいがたい。ラテン系の美人奥さんと、セフレ役スカーレット・ヨハンソンの両手に花状態など、ジョン・ファヴローのやりたい放題振りは大人には面白いが、そいつもまたしかり、である。

それはともかくこの映画は、米国がキューバとの国交正常化を前に、キューバマンセーをしまくっている点もなかなか思わせぶりである。

たとえば、フレンチの豪華なコース料理以上にキューバサンドが絶賛される展開。アメリカ人よ、キミたちはどれだけジャンクフードがすきなんだよと思わず苦笑してしまうわけだが、話はこれだけではない。

主人公たちが作るサンドは単なるキューバサンドではなく、アメリカ各地の郷土料理の要素を旅の途中でミックスさせていくのである。それが、全米でどう受け入れられてゆくか。そこがこのお話最大のキモだ。

はっきり言って、こういう作品こそが優れたプロパガンダなのである。超映画批評を読んだ人以外は誰もこれがそういう性質の映画だと気づかない、そこがポイントだ。

いま、アメリカの財界は来たるキューバとの国交正常化を見据え、キューバ市場に熱い視線を送っている。オバマ政権にも強烈な圧力をかけている。政治よりも経済のほうが、一歩も二歩も先を進んでいる。だからこそ、こういう映画企画が通るのである。米国民の感情を地ならしするようなこうした作品が、今後増えてくるのは間違いない。逆に、冷戦期のようにキューバを悪く描くような映画は、今後は作りにくいだろう。

その意味で「シェフ 三ツ星フードトラック始めました」は、きわめて現代的な映画といえる。むろん、純粋にグルメ映画、コメディ映画としての出来もいいから、見ておいて損はない。

キューバを知るための52章 エリア・スタディーズ
キューバサンド、まだ食べてません


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