「トラッシュ!-この街が輝く日まで-」85点(100点満点中)
監督:スティーヴン・ダルドリー 出演:マーティン・シーン ルーニー・マーラ

傑作2本の要素を融合

「トラッシュ!-この街が輝く日まで-」のスティーヴン・ダルドリー監督は、舞台を特定しない原作をブラジル、リオの物語に改変するに当たりフェルナンド・メイレレスを製作チームに引き込んだ。

その結果、本作は「リトル・ダンサー」(00年、英国)の優れた少年ドラマと「シティ・オブ・ゴッド」(02年、ブラジル)の超リアル犯罪ものの強烈なコラボレーションとして成功した。

リオデジャネイロ郊外の廃棄場でゴミ拾いをして生計を立てる3人の少年は、ある日ひとつの財布を見つける。好奇心旺盛なラファエル(ヒクソン・テヴェス)は、この財布を大人たちが血眼で探していることから何かを察知し、あえて彼らに渡さずその秘密を探ろうとする。

ゴミ拾いで生計を立てる悪ガキ3人がなにやら重大な秘密が隠された財布を拾う。おもしろい設定だが、一歩間違えば無難なお子さま映画にもなりかねないあらすじである。

ところが「シティ・オブ・ゴッド」(フェルナンド・メイレレス監督作品)のごとき容赦ない緊迫感を取り入れた本作は、最初から最後まで全く気が抜けない、一歩先にはなにが起きても不思議ではない恐怖、スリルを保持したまま展開する。

筋書きが小学生にはちょっと難解だから中学生くらいからの鑑賞を推奨するが、ブラジルという国、あるいは普遍的な意味での貧困の実態を伝えてくれる点で、子供たちに積極的に見せたい社会派の娯楽作品といえる。

ラファエロは、見た目は14歳のなんの力もない「持たざる者」である。だがそうした観客の先入観は、彼が腐敗した警察に虐待された後、ズタボロになりながら虐待者に対して一言を放つ、そのセリフを聞いて一変する。

この少年は、平和国家ニッポンにすむ我々の知る「子供」とはまるで違う。私たちには到底計り知れない根性を持っている。そこから俄然、この映画は盛り上がってくる。こいつは骨のある奴だ、見た目はガキだが頼もしい、タフなヒーローだ。

とはいえ、たくましいとはいってもそこは非力。しょせんは14歳の少年であり、3人集まったところで力はない。

しかし、終わってみれば気づくだろう。彼らの冒険が、彼らが子供だったからこそ先に進めたのだということが。

子供であることは必ずしも弱者ではないとこの映画は語る。銃殺を免れたのも、物語の鍵となる少女や黒人庭師と一見で仲良くなれたことも、すべて彼らが子供だからできたことである。

そしてなにより、拾った財布。そこに入っていた「お金以外のもの」に好奇心を持ち続けられたことが、これほどの結果を招いたわけで、だからこそ汚れきった心を持つ大人たちの心を打つのである。「最後は金目」などといっているようなどこかの国会在勤の能なしは、これを100回自腹で見て反省する必要があるとつくづく感じざるを得ない。

子供が主人公でありながら、降りかかる運命に手加減をせず描く。それは彼らを弱者、すなわち「自分たちよりも下」だと決めつけないという意味でもある。この映画が気持ちがいいのは、描く対象たる彼らにある種の敬意が感じられるからである。子供すなわち持たざる者は、決して保護し、助けてやるばかりの存在ではなく、彼らから学ぶ必要があるのではないかという謙虚な主張。そこがこの映画最大の美点である。

あきらめ続けた人生、妥協の象徴たる神父の姿こそ、これをみる大人そのもの。彼が最後にどう変化するか、そこにこの映画の作り手の期待と希望が込められている。見事な傑作、おすすめである。



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