「オオカミは嘘をつく」65点(100点満点中)
監督:アハロン・ケシャレス 出演:リオル・アシュケナージ ツァヒ・グラッド

イスラエルの一面を浮き彫りに

「オオカミは嘘をつく」はイスラエル映画だが、まさにあの国らしさを出している点で、高く評価できる一本である。

連続少女殺害事件を捜査する刑事のミッキ(リオル・アシュケナージ)は、教師のドロール(ロテム・ケイナン)を犯人と確信するがどうしても尻尾をつかめない。だが、被害少女の父親ギディ(ツァヒ・グラッド)はそんな彼に対し、ドロールを拷問してでも吐かせようと考え実行に移そうとしているのだった。

イスラエルという国はいうまでもないが、建国以来ひっきりなしに戦争をしているようなもので、ある意味アメリカ以上に暴力が満ちあふれた国といえる。これはイスラエル人のアハロン・ケシャレス監督もいっていることだが、この映画にはそうしたイスラエル独特の空気、ようするに「暴力が日常的に存在する」空気感を疑似体験できるように作られている。

なるほど、じっさい監禁者がある人物とスープを飲みながら穏やかな会話をした後のストーリーは、この映画最大のビックリ展開というわけなのだが、それこそがまさに作品のテーマでもある。この国では、どんなに暴力とは無縁に見える人でもそうとは限らない。この国では誰にとっても、暴力を行使するハードルはとても低いのだと、この監督はアイロニカルに語っている。

この異様さこそ、本作品が新鮮に見える最大の理由。異常さ満点なのに決してシュールではなく、現実的に演出している点がポイントである。登場人物の銃の扱いなども、他国の俳優のそれとは一線を画する迫力がある。

とはいえ、その役者の演技じたいは一部未熟であり、それがストーリーの意外性や恐怖感を削いでいる。

たとえば、もしこのオチにしたいのなら、本来は最後の最後まで、絶対に犯人が誰かを気づかせない演技が必要とある。だが、詳しくはいえないがその人物のミスリード演技が下手なために、こうした効果は台無しになっている。

メインのオチに驚きが薄いというのは致命的で、多少伏線の張り方などがうまくても、満足度はかなり下がる。

それでも、日本では珍しいイスラエル映画、それもかなりの社会批判をこめたショッキングスリラーということでレア度は満点。暴力が蔓延する国の異様な現実感を味わってみるのも、たまには悪くない。

アメリカはなぜイスラエルを偏愛するのか (新潮文庫)
この国の本は書く人の立場でほんと、真逆になるので注意が必要です。


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