「天才スピヴェット」65点(100点満点中)
監督:ジャン=ピエール・ジュネ 出演:カラム・キース・レニー ヘレナ・ボナム=カーター

ファンタジーの中に見え隠れする異常性

「アメリ」(01年)の監督ジャン=ピエール・ジュネは、たとえ大作でも一風変わった映画を作ることで知られるが、「天才スピヴェット」も独特の雰囲気を持つ映画作品である。初めて監督が3Dを採用した作品でもあり、その遊び心あふれる起用法を映像発明と称する人もいるほど。

10歳の天才少年スピヴェット(カイル・キャトレット)は、スミソニアン学術協会から最優秀発明の受賞の連絡が入る。頑固一徹保守オヤジの父親に言って、すんなり受け取りに行けるとは思えない。そこで彼は親に無断で、モンタナからワシントンへ旅立つことに。

少年のちょっとした冒険の旅を3Dで演出した、かなり個性的な感動ドラマ。

結論からいうと、子供の心象を3Dの抽象的な映像で表現するなど、たしかに新鮮味はある。だが映像発明というほど先進的なものでもない。むしろふつうの映画にふつうに3Dを使ったという印象である。

物語は、わずか10歳の子供が貨物列車にこっそり乗り込みスミソニアンまで旅をするというもの。見ている側ははらはらどきどき、保護者の気持ちになって楽しめるアドベンチャーである。

旅の途中では、廃電車で暮らすホームレスが人生についての含蓄ある言葉をくれるなど、奇抜な人物たちがちょいといい話をよこしてくれる構成。さほどの意外性はないものの、現実世界を舞台にしたおとぎ話特有の、不思議な寓話感覚を味わえる。

これは視点が徹頭徹尾主人公少年のそれだからなのだが、落ち着いて考えてみると相当ブラックな内容ということもできる。

まず主人公の弟は事故死しているのだが、幼い子供に実銃を与えた父親の教育方針が原因である。お父さんを大好きな子供の話だから気づきにくいものの、落ち着いて考えれば誰がどう見ても父親が100パーセント悪い。はっきり言ってこの映画の一家は異常である。

そういう話をすんなりお涙ちょうだいとして見られるのは、全米ライフル協会の連中くらいなもの。こうした事件を家族の再生ドラマのネタに使うというそのこと自体、とんでもない皮肉になっているように私には見える。

それと同時に、だれもが共感するのは父親のウエスタン趣味がつまった部屋を子供がなつかしむ回想場面。アメリカという国の魅力と異常性を、子供を主人公にした一見健全な冒険物語に潜ませるあたりが、ジャン=ピエール・ジュネ監督の大胆なところ。

本作のロケもほとんどカナダで行ったほどこの監督が大のアメリカ嫌いという点を知っていれば、そんなことにもすんなり気づくだろう。見ようによってダークな裏側が浮かび上がってくる。そこが「天才スピヴェット」の奥深い魅力といえる。



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