「マダム・マロリーと魔法のスパイス」65点(100点満点中)
監督:ラッセ・ハルストレム 出演:ヘレン・ミレン オム・プリ
邦題がすごい
ディズニー配給作品ということで、なんだか空からパラソル持ったおばさんがおりてきそうな題名になっているが、「マダム・マロリーと魔法のスパイス」はそうしたファンタジー映画でも、女の子向けお気楽極楽映画でもないl。
インドからやってきた料理店一家の息子ハッサン(マニシュ・ダヤル)は、天才的な舌の感覚と料理の腕を持っている。彼らは家長の父親(オム・プリ)の独断で南仏の物件を居ぬきで借り上げるが、その真向かいには頑固者マダム・マロリー(ヘレン・ミレン)が経営するミシェラン一つ星レストランが建っていた。
いや、確かに女性たちが喜ぶグルメ映画にして、気楽な文化ギャップコメディではある。ヘレン・ミレンとオム・プリの掛け合い漫才のようなやりとりは笑えるし、裏山でとれた野生のキノコで作るソテーなどは、みるからにおいしそうで腹が鳴る。
フレンチとインド料理。正反対のジャンルながら両者が繰り出す料理の絢爛さ、美味しそう感は相当なもの。たしかにこの映画、グルメものとしても一流だ。
だが、それでも本作の本質は別にある。それは、何を隠そういま欧州を悩ませる重大な社会問題、移民についてである。移民とそれを受け入れる側の理想的な関係を、本作は提案している。
いうまでもなく欧米では移民制度はすでに導入され、大きな民族・住民間の軋轢を生み出している。だからこの映画も、監督が違えば死人の一人や二人出ていても不思議じゃない、そんな危ないストーリーといえる。ディズニーだからコメディになっているだけの話である。
実際、脚本家のスティーヴン・ナイトは「イースタン・プロミス」(2007)、「堕天使のパスポート」(2002)など、重苦しいタッチの作品で移民問題を描き続けてきた人物であり、本作とて彼の関心の延長線上にあることは間違いない。
移民問題といってもご近所さんレベルの小さな範囲の中で、私たちはどうふるまうべきか──について解決への道筋まで彼は言及している。そのために、少々おちゃらけたラブコメディにする必要があったのかと思うと、逆に彼らの現実の深刻さをかいま見ているようで複雑な思いである。
日本でも、移民受け入れを強く願っている現政権および財界は、この映画を自腹で少なくとも3500回は見なくてはいけない。
ところで面白いのは、スティーヴン・ナイトが語るその解決の道筋というものが、日本ではすでに当たり前のように共有されている点だ。
具体的には日本の国技、相撲界がそれにあたる。外国人力士を移民、受け入れる側の国民を相撲ファンにたとえると、彼らの関係はまさに「マダム・マロリーと魔法のスパイス」が語る理想的なスタイルそのものである。
世界中を悩ませる移民問題。当事者が考えつくした理想的結論はすでに日本の常識だった。つくづく日本人というのは、凄いのか天然なのかよくわからない民族である。