「イコライザー」70点(100点満点中)
監督:アントワーン・フークア 出演:デンゼル・ワシントン マートン・ソーカス

80年代ドラマを2014年にリメイクする理由

「イコライザー」は冷静に考えるとつっこみどころ満載で、それをご都合主義のハリウッドイズムで蹴散らす剛腕な映画だが、見ている間はあまり感じさせない。いかにもアメリカ映画のお家芸、的なヒーロー映画である。

ホームセンターで働く平凡な男マッコール(デンゼル・ワシントン)は、眠れない夜に深夜営業のダイナーで本を読むのが日課となっていた。そこで知り合った娼婦のテリー(クロエ・グレース・モレッツ)が、あるときロシアンマフィアに虐待されているのを知ると、彼は単身マフィアのもとへと赴くのだった。

主人公のキャラクター設定がユニーク。悪と戦うには年齢が高すぎるというだけでハラハラさせるし、元CIA工作員という、米映画界では無敵という意味の経歴を持っている点もまたしかり。デンゼル・ワシントンは善人を絵にかいたような顔をしているが、敵をつるして絶命まで見続けて確認する姿はほとんどプレデター。じつにえげつない殺人術で笑える。

彼と真夜中のダイナーで心安らぐ暖かい交流を繰り返す娼婦役クロエ・グレース・モレッツがまた、もうちょい痩せればいいのにと誰もが思うむっちむちなルックスで親しみを感じさせる。

主人公のライフスタイルも妙に魅力がある。几帳面に整理整頓し、毎日のリズムを崩さず、無駄なものは持たない。思わず明日から断捨離をすすめたくなる、あるいは深夜営業のカフェに通いたくなる、男があこがれるシンプルライフの極致のような格好よさがそこにはある。行ったところでクロエのような愛嬌ある友達は永遠に表れないわけだが……。

彼の生活を取り巻くわき役キャラも立っていて、前半の共感あふれる日常風景が、後半のサバイバルアクションにおける伏線にもなっていて盛り上がる。熱い友情映画にもなっている。

また、いくつもの名言を味わえる作品でもある。個人的に気に入ったのは主人公が友人を励ますときに言ったセリフ「完璧より前進を」。仕事に勉強に、あるいは今夜の合コンの前に、繰り返しつぶやきたい名言といえるだろう。

アメリカのヒーロー映画らしく、時勢に合っているのも見所。たとえばこのヒーローはいまどきの米国世論の象徴のごとくリバタリアンそのもの。自分のことは自分でやる。自分の身は自分で守る。まさにDIY殺人術。地域コミュニティーを何より大切に生きる。

本作がこうした思想背景のもとに作られているのは、相当無理があるあのラストをあえて採用していることからも明らかである。オリジナルのテレビドラマ「ザ・シークレット・ハンター」は80年代中盤の作品だが、巡り巡って今リメイクされるにはちゃんと理由があるということだ。ここがアメリカ映画界のすごいところ。

さらに言うと、アントワン・フークワ監督はプロパガンダ映画御用達監督なので、現実の米露関係など国際情勢をこの一見ありがちなストーリーに重ねてみてもまた面白いだろう。

とにかく見所たくさん、退屈しらず。とくに中年男性にとっては、妙にツボにはまる、アメリカ版・必殺シリーズ。一見の価値ありだ。



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