「グレース・オブ・モナコ 公妃の切り札」55点(100点満点中)
監督:オリヴィエ・ダアン 出演:ニコール・キッドマン ティム・ロス
女優のカリスマに頼りすぎ
ほんの数年の間にわずか11本の映画に出ただけなのに、その名を永遠としたオスカー女優がいる。「グレース・オブ・モナコ 公妃の切り札」の主人公グレイス・ケリーのことだが、いわずと知れたのちのモナコ公妃であり、若くして交通事故で世を去った、まさに映画のような人生を生きた女、でもある。
モナコ大公レーニエ3世(ティム・ロス)と結婚した女優グレース・ケリー(ニコール・キッドマン)は、二人の子供に恵まれながらも王室内に友人もなく孤立していた。それでも変わらず接してくれるヒッチコック(ロジャー・アシュトン=グリフィス)と再会し、久しぶりに笑顔を取り戻した彼女に、この映画監督は自作の主演と復帰話を持ちかけるが……。
古い時代の女優の中でもグレース・ケリーの美貌は別格で、「裏窓」あたりの彼女はスチールで見ても動画でみても非の打ちどころのない美人女優といえる。ヒッチコックが愛したブロンドの中でも群を抜いていて、だから本物の姫様になった逸話も納得であろう。
本作で彼女を演じるニコール・キッドマンも、現代の女優の中では相当整った顔立ちだが、それでも到底及ばぬものがあの女優にはある。この映画は、そんな彼女の王室内での苦悩と葛藤、そして知られざる公国の危機を救った献身ぶりを描く伝記ドラマである。
もっとも、その内容にはたぶんにフィクションが含まれると思われるわけだが、それならばもう少し色を付けてもいいのではないか。本作はグレースのイメージ通り品よく進行させようとしている感じがして退屈する。
伝記映画とは、その本人が出演した映画や作品より面白いものを作るくらいの覚悟がなければうまくいかない。グレース・ケリーのカリスマに頼っているだけではダメだ。
本作でいえば、ストーリー上のポイントはクライマックスの公国の危機を救うスピーチであり、そこに至るまでに彼女は様々な努力をするわけだ。宿命の敵、というかキーマンであるフランスのド・ゴール大統領をはじめとする大物たちを前にした一世一代の勝負。それに勝つためにあらゆる人心掌握のテクニックを彼女は身に着ける。その過程をもっと盛り上げなくてはいけなかった。
何しろ世界のヒッチコックが愛した女優であり、オスカーウィナーなのだから、その経歴が重要な伏線として役に立つとか、いくらでも美談度を上げられるのにいまいち盛り上がらない。
軍隊を持たぬモナコが軍事大国フランスをはじめとするパワーバランス間で、この大嵐をどう乗り切ったのか。それは、多極化が進み、大国アメリカですら翻弄される現代に通じるテーマでもある。そんな状況にこの不世出の美人女優がいたことが、どういう意味があったのか。現代の人々に何がしかの教訓やヒントを与えてくれるのではないのか。
そうした点まで踏み込まなくては、このストーリーで2014年に映画化する意義にかけると言わざるを得ない。