「蜩ノ記」60点(100点満点中)
監督:小泉堯史 出演:役所広司 岡田准一

贅沢なつくりの本格時代劇

本格から新味あるものまで、時代劇映画が久々に台頭してきた背景には、テレビ時代劇の減少による飢餓感と、愛国ドラマが金になるとのマーケティングの結果による。

城内で刃傷沙汰を起こしてしまった檀野庄三郎(岡田准一)は、家老から許される代わりに幽閉中の戸田秋谷(役所広司)の見張りを命ぜられる。戸田は不祥事を起こし、10年後の切腹を命じられるという前代未聞の罪に服していたが、その期限が3年後に迫っていたのであった。

時代劇というものは、基本的に日本マンセーというか、古き良き日本の良さを無条件でフィーチャーできる数少ないジャンルである。高齢のファンにくわえ、若者にもアピールできる要素がそこにはある。というわけで、大河ドラマ出演中の岡田准一のスケジュールを見事に押さえ、武士の覚悟の崇高さを描く本作は完成を見た。

10年後に切腹せよとはとんでもない判決であり、通常の精神ではとても耐えられる刑罰ではないだろう。ところがどうだろう。役所演じる戸田秋谷は、悠然と、そして穏やかな笑顔で檀野を迎える。それどころか、妻の原田美枝子も娘の堀北真希もまったくうろたえていない。父、あるいは夫の死と覚悟を静かに受け入れ「その日」まで支える、彼女たちも覚悟を決めているのである。世界よ、これが日本だ。まさにザ・武士道、の世界である。

個人的にはさすがにおいおいと思わざるを得ない美辞麗句の塊ではあるものの、ほとんどの方は本格時代劇ならではの静謐な間、深みある映像、そして役者たちの所作からなる様式美の世界にひたり、そんなことを感じる暇もないだろう。

黒澤明を支えてきたベテラン小泉堯史監督は、それらを実現するためにいろいろと仕掛けた。事前に役者には関係書物を読ませ、日本舞踊を習わせ、書道をやらせた。そうして少しでも現代っ子の動きを眠らせる効果を期待する、すなわち時代劇の所作を身につけさせようというわけだ。

もちろんいうまでもなくフィルム撮りで、一説にはもはやこれが最後のフィルム邦画などと言われているが、落ち着いた絵作りは安心感そのものといった具合。殺陣はほんのわずかで見せ場というほどではなく、先述した「武士道、あるいは日本人の良さ」そして、「いったいなぜこの男はこんなに落ち着いていられるのか」「実際は何をしでかしたのか」とのミステリ的謎解きで観客を引っ張るドラマである。

あまりにお人形的な完璧人間ばかりで少々鼻白む点と、安定しすぎて意外性のない展開が不満。それでもこのオチを見ると、戸田秋谷と最後に対峙するある人物が、どうも現代のある人物にダブって見えてきて面白いなと思う次第である。

蜩ノ記 (祥伝社文庫)
54歳でデビューした作家というのも珍しいですな。


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