「るろうに剣心 伝説の最期編」75点(100点満点中)
監督:大友啓史 出演:佐藤健 武井咲
有機的につながるアクションを堪能
週末だけで13億円という驚異的な興収を記録したこの完結編は、前作「るろうに剣心 京都大火編」がいまだ上映中で、同じシネコンでみられるから相乗効果でグイグイ伸びるだろう。それだけの出来栄えだし、見ごたえも大いにある。
強力な私兵軍団を築いた志々雄真実(藤原竜也)の前に、明治政府は後手後手にまわり劣勢を否めない状況であった。一方、志々雄を唯一止められると期待された緋村剣心(佐藤健)は、危ないところをかつての師匠・比古清十郎(福山雅治)に救われる。彼のもとで療養と再修業に挑む剣心だが、はたして剣術面で圧倒された瀬田宗次郎(神木隆之介)や志々雄に対し、単身反撃できる日はくるのだろうか。
前作の隠れキャラ比古清十郎が前半の見せ場を彩る。演じる福山雅治と剣心役・佐藤健のソードバトルは本作でも最高クラスの迫力を感じさせる見事なもので、あの剣心がパワーで押されまくる姿には、速度で負けた瀬田戦とはまた違ったリアリティが伝わってくる。
そんなキツい修業を経てスーパーサイヤ人になった剣心が、志々雄一派にリベンジするというのが本筋となる。
一度は負けた相手が再戦でどうした反応をするか、そんなところからも剣心の成長を感じさせるし、なにより演じる佐藤健の鬼気迫る表情など、演技面でも驚かされるほどの「差」を見せるものだから、観客は驚きの連続である。
撮影は前作と同時期だろうから演技者が成長するはずもなく、要するに2作目はスタッフもキャストも相当抑えていたということだ。あれだけのモノを作りながら……。
この完結編はそんな彼らがいよいよ本気を爆裂させたにふさわしい仕上がりで、個々のバトルシーンがきっちりストーリーの起伏に対応し、見た目の完成度も高いからえらい盛り上がりである。
むろん3部作ながら登場人物が多いため、個別の原作エピソードは相当端折ってある。とくに志々雄一味のそれは、相楽左之助がある男と戦っている間の会話で触れてハイおしまい、ときた。これには原作リアルタイム世代の私などは思わず苦笑したが、最小限の説明がないとその後のクライマックスをアゲにくいから仕方あるまい。
伊勢谷友介が演じて見た目はいちばん恰好いい四乃森蒼紫あたりも、時間があればもっと掘り下げたいキャラクターなのだが足りず、ほとんどかませ犬になっているのは残念。だが、これでも相当恵まれているほうだろう。彼を含め、正直、どいつもこいつも負けっぷりが悪いキャラばかりなので男が見てもあまりいいとは思わないが、メイン客層たる女の子たちは喜ぶだろう。
このほか、志々雄の計画がどう考えても成功するはずない幼稚なものだとか、神谷薫一家の子供っぽいふるまいだとか、本筋に致命的な欠陥があるものの、しょせん婦女子向けとあきらめるほかなかった原作および前作までと異なり、本作ではそこそこあらを目立たせない形にリファインしているのは評価したい。
その最大の立役者はなんといっても藤原竜也で、この役者の存在感と説得力は本当にすごい。今回は顔が包帯で隠れているわけで、演技者としては手足をもがれているようなものだが、それでもMVPをあげるとなればこの人以外にはいない。
なにしろこれだけのオールスター作品でも群を抜くオーラを発し、くさいセリフも違和感なく発し、たるみがちな要所に出てガッチリと決める。戦闘力もあまりに高すぎて、最後の戦いではわんさと出てくる主人公側のザコっぷりに思わず笑いまで出た。悪役がいいと映画が締まる見本である。
なお原作未読者は、これが史実を取り入れたフィクションになっているからといって考証について考えはじめるとドツボにはまるので注意したほうがいい。ハンサム揃いの豪傑たちが繰り出す浮遊感あるハイスピードアクションと、ワイン2本くらいあけなければ到底言えないような恰好いい言い回しのセリフ、それだけ味わえれば十分であると割り切るべきである。