「柘榴坂の仇討」60点(100点満点中)
監督:若松節朗 出演:中井貴一 阿部寛

坂の会話が最大の見せ場

「るろうに剣心 伝説の最期編」の翌週に、浅田次郎の短編を映画化した「柘榴坂の仇討」が公開というのは、じつに鮮やかなコントラストを感じさせる。どちらも幕末から明治という比較的近い時代を舞台にしながら、次世代感たっぷりの「るろ剣」とは対照的に、こちらはオーソドックスな本格時代劇である。

安政七年(1860年)、桜田門外の変で大恩ある主君・井伊直弼(中村吉右衛門)を救えなかった志村金吾(中井貴一)。古き時代の武士そのものといえる忠義心ある志村は、切腹すら許されずその後の人生をひたすら実行犯の佐橋十兵衛(阿部寛)を探す、それだけに費やすことになる。

浅田次郎原作らしく、泣ける場面多数。短編の映像化だからか強引なダイジェスト感もない、無理ない作りの時代劇である。

主人公の苦しみと解放をひたすら待ち、支え続ける貞淑な妻役を広末涼子が演じていたり、阿部寛が長身を小さい人力車の中で持て余していたりといろいろ難しい部分があったものの、いまどき公開される時代劇映画としては、保守的なファンも満足できるレベルには仕上がっている。

殺陣の見せ場も多少はあるが、それはメインではなく、一番もりあがるのはタイトル通り柘榴坂における二人の対峙シーン。

激動の時代の要求に強い責任感で応えた結果、人間一人ではとうてい背負いきれない重い荷を引きずる二人が出会う。それは彼らがそれぞれ前に進むためには必然といえるわけだが、あまりに切ない悲劇的なムードが漂う。戦いはすでに終結しているのに、彼らの因縁はいまだ消え去ることがない。

このシーンについて阿部寛は、相手役中井貴一の反応が全く見えない位置関係もあって、もっとも演じるのが難しかったと語っている。大きなスリルと感動を味わえる、よくできたクライマックスとなっている。

余談だが「るろ剣」と本作、コンセプトが全く異なる二つの時代劇が語るテーマは意外にも非常に似通っている。ほとんど同じといってもよい。

大きく変化する時代において人は、寛容と前向きな心を持って、それを許容しなくては前に進めないのか──。モンベルやアウトバックステーキ、シンガポールレストランなど各国の雑多な店がたちならぶ現在の柘榴坂(品川駅高輪口)を歩きながら、そんなことを考えてしまう一本であった。

柘榴坂の仇討 (中公文庫)
表紙は映画のそれになってます


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