「テロ,ライブ」75点(100点満点中)
監督:キム・ビョンウ 出演:ハ・ジョンウ イ・ギョンヨン
現実を予見した社会派エンタテイメント
真っ先に逃げ出した船長をはじめ、運行会社から泣き女こと大統領、メディアや救助担当者まで、そろって信じがたい無責任体質を露呈したセウォル号事故。突発的な大事故が起きると、かかわる人々の本質が見えてくる例といえるわけだが、映画「テロ,ライブ」はその韓国の悪しき国民気質のようなものを、直前に予見していた点で特筆すべき社会派エンターテイメントといえる。
不祥事でテレビ番組からラジオ局に左遷された元国民的アナウンサー、ヨンファ(ハ・ジョンウ)は、今日もやる気のないトーク番組を進行していた。生放送だというのに爆破予告のいたずら電話がかかってきたことも、さらに彼を憂鬱にさせた。ところが直後、局の前の漢江に架かるマポ大橋が爆発炎上。その瞬間からヨンファの脳味噌はフル回転し、この前代未聞のスクープを利用して自らの復帰を図ろうと色めき立つのだった。
生放送中に爆破犯人から電話がかかってくる。ありがちだが魅力的な切り口のリアルシミュレーションドラマ、である。
ユニークなのはこの大被害を前に、主人公も周囲のスタッフもいかにスクープをものにするか、視聴率を上げるか、出世するかといった自分がどう得をするかにしか目が行っていないところ。それと報道の自由、ジャーナリズムとしての社会的義務が、当たり前のように両立していると思い込んでいるところが本作一番の恐怖どころ、である。
このテロリストの犯行動機も、あまりにひどいブラックな社会体質が背景になっているなど、セウォル号の事故を見た後では、あまりの共通項の多さに驚愕させられる。爆破で残った橋部分をみて、きっと全員が助かります、と叫ぶシーンの虚しさと言ったらない。誰もがあの事故の報道を思い出してしまう、そんな場面である。これをセウォル号の事故の顛末をしった後にみられる日本の観客は幸運である。
爆破犯と、切れ者の元キャスターの心理戦も見ごたえたっぷりで、どちらも自分の利益を得るため、互いを利用する。いいか悪いかは別だ、これは人生最大のチャンスであり賭け。それだけは二人にとって間違いないことである。ほんのわずかな良心は、その巨大な動機の前ではあえなくかすむ。
犯行動機の謎、先の展開に対する興味、それぞれ場面に対するスリラーとしての演出。どれも平均以上の出来栄えで、まったく退屈することはない。映画の上映時間と現実のそれがリンクする演出も、緊迫感を与える効果を上げている。はたしてこの劇場型犯罪の行方はどうなるのか。
なおテロリズムの発生原理を描いた映画は9.11後のアメリカ映画に腐るほどあるが、この作品が秀逸なのはそれを一歩先に進め、テロリズムの継承原理にまで踏み込んでいる点だ。終盤の展開はやややりすぎではないかとの批判もあるが、この社会的テーマの普遍性、新しさの前では意味を持たぬ批判である。
面白くて、時代性豊かで、なにより現実を予見した先見の明。「テロ,ライブ」は、いままさに必見の韓国の骨太なエンターテイメント映画である。