「友よ、さらばと言おう」60点(100点満点中)
監督:フレッド・カヴァイエ 出演:ヴァンサン・ランドン ジル・ルルーシュ
コテコテのフランス人情アクション
「すべて彼女のために」(08年)、「この愛のために撃て」(10年)で知られるフレッド・カヴァイエ監督は、ドストレート、電車道のようなアクション映画で高い人気がある。大切な人のため、愛するものを救うため。その迷いなき主題を高らかに歌いあげる潔さはアメリカ人の心をも撃ち抜き、次回作ではいよいよハリウッドデビューも予定される。
人身事故の不始末から立ち直れずいまだ荒んだ生活を送る元刑事シモン(ヴァンサン・ランドン)と、それを放っておけないかつての相棒フランク(ジル・ルルーシュ)。あるときシモンの息子がマフィアの殺人現場を目撃したことから、彼らは再びコンビを組み、悲壮な戦いに挑むことになるのだった。
全米進出を前に全勝で行きたかったフレッド・カヴァイエ監督だが、予告編の出来栄えの良さに比較して、本編は少々凡庸である。絶対伝えてはならない事項を売り文句にする一部の紹介も、期待を台無しにする要素の一つである。これはいってみば、友達にミステリを手渡しながら、「結末はもちろんいわないけど、叙述トリックだよ」というのに等しい(この作品がそうという意味ではない)。
映画紹介には、それをいうだけで興味が大きくそがれる事項というものがいくつかあるが、ときに業界のプロでさえわかっていないことがあるので注意が必要である。とりあえず映画選びのためには真っ先に、いつもニコニコネタバレなし、読者は神様ですのポリシーで運営する当サイトのような良心的な著者のもとで情報集めをすることが肝要である。
それはともかく、上記ネタバレを食らっていなければTGVとのカーチェイスからラストまでのくだりは、異様なテンションの、他国作品ではなかなか見られぬアクションシークエンスの密度と情感を十分に楽しめるだろう。
死体を転がして敵の目を欺くとか、外連味あふれる演出も多いのだが、人間ドラマ部分が本気なので荒唐無稽な感じが薄い点も好ましい。
大切な人への愛情。それが二重奏から不協和音のように鳴り響き、観客を不穏なムードに導くテクニカルな作りは、別の言い方をすれば変化球といったところ。これから作っていたらこの監督もここまでの高評価は得なかったであろう。あくまでこれまでの成功があるからこその、新たな引き出しの披露。
フレッド・カヴァイエ監督、ハリウッド進出への期待が高まる一作といえる。