「2つ目の窓」40点(100点満点中)
監督:河瀬直美 出演:村上虹郎 吉永淳
変わらぬ河瀬節
自覚があるのかどうか知らないが、河瀬直美という監督ほどブレなく自分流を貫いている人はあまりいない。墓の中から過去の巨匠が表れてなにか彼女にアドバイスしたとしても、きっと彼女はブレないだろう。そんな風に思わせる強さが作品からは毎度感じられる。出来不出来は別にして、その自己主張と自己愛については、私は高く評価している。
奄美大島に暮らす高校生の界人(村上虹郎)は、あるとき海岸で溺死体を発見する。思わず逃げてしまった彼を、彼に思いを寄せる同級生の杏子(吉永淳)が目撃していた。そのことを屈託なく問いかける彼女。その母イサ(松田美由紀)が余命わずかだということ。自分の母親岬(渡辺真起子)と恋人との性的な雰囲気。そうした生と死の様々な奔流から逃れるように、界人は東京に住む父親を訪ねるが……。
監督があれほど願っていたパルムドールの栄冠は、チャイルドポルノになりかねないクライマックスの濡れ場のインパクトを考えればどう考えてもこのご時世、無理だろう。それでも迷わず吉永淳を全裸に脱がしてしまうのだから、この監督にブレはない。本人は「最高傑作」と満足しているのだから、それでいいのである。そのうち世界の倫理観やカンヌ審査員のほうが彼女に追いつく……のかもしれない。
このセックスシーンは、テーマを語る上でも大事なものだということは、直前に木を切り倒す場面がはさまれることでも一目瞭然。この映画の最初は別のショッキングな場面から始まるわけだが、どちらも本質的には同じ意味合いを持っている。どちらが残酷に見えるかは観客の生い立ち次第だと思うが、後半のほうがそう見えるように演出できれば、なお良かったように思う。
前半は比較的わかりやすい語り口で、ああ、河瀬監督はついに「伝える喜び」ではなく「伝わる喜び」に目覚めたのか……と感慨深く見ていたがもちろん誤解で、ちゃんと後半は彼女のパーソナルな理想郷を追いかける展開となってある意味ファンを安心させる。理想の性は理想の生であり、死。そうしたものを、彼女のルーツでもある奄美大島を舞台に探ってゆく。
本作に限らず、彼女の映画は彼女の内面を彼女の好きなやり方で探るものなので、映画の題材ではなく河瀬直美に興味があるかどうかで鑑賞を決めるのがポイントである。
奄美大島の、ときに恐ろしい自然とか、緩和ケアとか、フレッシュで自然な演技を見せる村上虹郎とか、小さめの胸やプリプリなお尻が魅力的な吉永淳のヌードとか、そういうものに興味がある人が鑑賞してももちろんいいが、それらはしょせんサブ的魅力なのだと理解してから映画館に行くべきである。