「幕末高校生」45点(100点満点中)
監督:李闘士男 出演:玉木宏 石原さとみ

コンセプトが不明瞭

未来の記憶を持ったまま過去にいけば、それはほとんど万能感に近いものがあるだろう。そんな逆ドラえもんとでもいうべき設定の物語はいくつもあるが、「幕末高校生」は、幕末の江戸時代にタイムスリップする歴史SFである。

1868年の江戸にタイムスリップしてしまった高校歴史教師の未香子(石原さとみ)と3人の生徒たち。彼女は勝海舟(玉木宏)と出会うが、毎日することもなさそうに、のほほんとした彼からは危機感がまったく感じられない。歴史上、新政府軍による江戸総攻撃が間近に迫っていると知る未香子は、無血開城のカギとなる勝のそんな能天気さにやがて不安を感じ始める。

どうもいろいろとずれを感じる企画である。あんなにかわいらしい歴史教師を出していながら色気ゼロ。ということは、ようするに男性よりも歴女向けということなのだろうが、かといって男性キャラにさほど魅力的な人物が配されているわけでもなく。

勝海舟の大立ち回りが最大の見せ場となっているが、彼が知る人ぞしる剣豪だった史実があるにしても、それがほぼ唯一のスペクタクルというのはちょっと違う気がする。リアル剣心のごとき「殺さずの勝」による意外性はあるにしても、だ。

それより現代人にとって勝海舟の凄さとは、ときに味方からも裏切り者扱いされるほどの異端性や奔放な発想、交渉術といったところだろう。思ったよりちゃらんぽらんでひ弱そうなキャラ造形で意外に思わせつつも、しめるところはキッチリ締める。その凄みに現代っ子である登場人物たちも、観客も圧倒される。そうしてこそ、こういう話はおもしろくなるのではないのか。

タイムスリップSFというものは、その時代の強烈な個性に登場人物たちが影響を受けてこそ感動が訪れる。

列強からの侵略と、内戦で国が割れる国家未曾有の危機を前にした幕末のこの時代ならば、それは愛国心ということになろうか。というより、この時代を舞台にしながらそれをメインテーマにしないなんて余りにもったいない。2014年の日本とリンクさせるには、それ以外には無いだろうに。

本物の国士と交流し、ノンポリ学生が何か意外な成長を見せるとか、あるいは右思想大好き少年が本物の政治の凄みを目の当たりにしてショックを受けるとか、いろいろな展開が考えられる。とくに現代は、ここ数年続いた若者の右傾化ブームが、そのインチキさに気づかれ、ぼちぼち反転しつつある時代である。

そんな空気を先取りして、突っ込みをいれるくらいの隠しテーマがほしいなどと思ってしまうのは、決して贅沢とは思わないのだが。



連絡は前田有一(webmaster@maeda-y.com 映画批評家)まで
©2003 by Yuichi Maeda. All rights reserved.