「プレーンズ2/ファイアー&レスキュー」60点(100点満点中)
監督:ボブス・ガナウェイ 声の出演:デイン・クック ジュリー・ボーウェン

映像はいいのにもったいない

ディズニーアニメには、劇場公開はされずDVDのみの続編・スピンオフが多数存在する。そういう作品を専門に作るスタジオがあるからなのだが「プレーンズ」シリーズもその一つ。世界観を同じくする大本の「カーズ」(06年)とその続編はピクサーによるものだが、そんなわけで本シリーズは彼らが作っているわけではない。

超A級のスタッフと大予算を擁するピクサーに比べれば、質が大きく落ちるのは当然だが、それでも前作「プレーンズ」(13年)はなかなかよく出来たということで、劇場公開が決定した経緯がある。

世界一周レースを制した元農薬散布機のダスティ(声:デイン・クック)だが、致命的なギヤボックスの故障でもはやエンジンを全力で回すことができなくなってしまった。やけになって町の皆に迷惑をかけてしまった彼は、その責任をとるため山岳レスキューチームで新人研修を受ける羽目になる。消防のプロたちは、レース機のそれとはまったく違った逞しさを備えており、ダスティは彼らに一から根性を叩き直されることになるのだった。

見た目こそ劇場公開に耐えるクオリティだが、ピクサーの諸作品とは比べるべくもない脚本の弱さが目立つ。

天狗になっているのか、わがままばかりのダスティが、日々山火事と命のやり取りをしている消防航空機らの世界でプライドをへし折られ、しかし新たな世界とそこで生きるプロへの敬意を知る。まあ、そんな大筋だが、結末を含め、あちこちでこの主柱が揺らいでおり、なんともしまりがない。

そういう筋書きにしたいのならば、ダスティが生まれ変わるための引き金が、大火事救出シーンでのレッドゾーン突入だけというのはあまりに弱い。

あれは所詮、ダスティにとっては自分自身だけのことである。一方消防の仕事の最重要点は、レースとは違ってチームプレーということ。だからダスティは自分自身の殻を打ち破る以前に、仲間を信頼するといった点に目覚める必要があった。もしくは、華やかなレースではなく、地味ながら本当の意味で社会に不可欠な実業に目覚めるとか、そういう形でもいい。

いずれにしても、そのためには自分の大切なものをダスティは捨てる覚悟をしなくてはならない。あっちもほしいがこっちも得るでは、ワガママなキャバ嬢と変わらない。主人公がキャバ嬢のままでは感動も何もあったものではない。

そうした事柄をひとつも描いていないから、本作品の脚本は薄っぺら、なのである。「人生には、どうにもならないことがある」という、せっかくのいいセリフもこのエンディングでは台無しである。

こうした爪の甘さがしょせん二軍によるスピンオフというわけだ。あくまで二番三番煎じであり、オリジナルが稼ぎ残した利益の残滓を、できる限り低コストで回収するだけの作品になっている。そんな大会社のビジネス戦略におつきあいするかどうかは、観客であるあなた次第だ。

もっとも、重低音を響かせる山火事シーンのド迫力と格好よさは、子供たちが消防という仕事に興味をもち、あこがれるきっかけには十分なるだろう。そうした用途に使うのであれば、比較的有用な一本になるとは思う。



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