「マレフィセント」60点(100点満点中)
監督:ロバート・ストロンバーグ 出演:アンジェリーナ・ジョリー シャールト・コプリー
ディズニーの変化球
いつのころからか、おそらくドリームワークスがディズニーのパロディ的王道くずしで天下を取ってからだと思うが、ディズニー自身も変化球を投げてくるようになった。
その集大成がまさに話題の「アナと雪の女王」で、これにはなんと魔女も運命の王子様もでてこない。ディズニー自ら、自社製品の代名詞である王道を崩しているのであり、しかもそれが大受けしている。ウォルトさんがみたらびっくりしてしまいそうだが、そんなわけで近年の王道くずしは、ディズニー映画の重要な戦略方針として存在しているといって良い。
人間の王国に待望の姫、オーロラ(エル・ファニング)が誕生するが、そこに邪悪な妖精マレフィセント(アンジェリーナ・ジョリー)が現れ、「16歳の誕生日までに姫は永遠の眠りに落ちる」と呪いをかけてしまう。なぜ彼女はそんなことをしたのだろうか。じつは、かつて彼女も美しい妖精であったが、愛した人間の男に裏切られた過去があったのだ──。
「アナ雪」に匹敵する、いやそれ以上の変化球が「マレフィセント」。アナ雪につづくディズニーの勝負作である。
名作アニメ映画「眠れる森の美女」(59年)にでてくる魔女マレフィセントは、ほんとはこんな人だった、というセルフパロディ的スピンオフで、アンジェリーナ・ジョリー主演の実写映画。
心優しい妖精だったマレフィセントが、野心から彼女を裏切るひどすぎるダメンズ彼氏によってトラウマを抱え、稀代の悪役へと落ちてしまう。決して元からワルだったわけじゃない、本当はピュアなあたいだけど、男運がなかったの……。というわけだ。ほとんど尾崎豊「ダンスホール」の世界である。
ホントの自分を抑圧されながらも、ありのままに自己解放するエルサ(注・実際は国土を滅亡寸前にまで破壊した逃亡犯)に続く、いかにも女の子(注・30代独身)が共感しそうなキャラクターである。その意味では二作連続で実にあざとい。さすがはマーケティングの鬼ディズニーといえるだろう。
しかも演じるのが、波瀾万丈の人生を生きてきたアンジーときた。このキャラクターに対しては、並々ならぬ思い入れがあったであろうと、誰もが想像できるキャスティングだ。
映画自体は他の変化球ディズニー作品同様、パロディ的なギャグがキレキレで面白い。赤ちゃんを育てる妖精たちが人間の子育てに無知で、とんでもないものばかり与えるのをマレフィセントがあきれてみていたり、ほんとは好きなくせにモンスター呼ばわりしたりなど、みていて幸せになれる笑いが続出する。
予想を裏切るほどのテクニカルな語り口ではないものの、結構な感動シーンも準備されている。
もっとも、いかに傲慢と愚かさの象徴としての役割があるとはいえ、敵国の妖精に16年間も子供を預けっぱなしといった、児童虐待防止センターもびっくりの展開など、相変わらず筋運びは相当強引である。糸車が呪いの引き金アイテムだからといって、国中から排除するのも今思うと無理がある。
それこそ城内だけ排除して、エルサ女王のように16まで軟禁すればすむ話である。オーロラにはブリザード魔法などないのだから、ありのままに国を凍らせられる心配もない。
実写リアル版で見るとそうしたつっこみ点は多々あれど、「眠れる森の美女」のアニメ版から続けてみることで、こどもたちに「善悪は見た目だけでは簡単にはわからない」といった高度な教育をできるなど、存在意義は大いにある。とくにオチバージョンが実写というのが実在感あっていいではないか。激しい戦争シーンはあるが、残酷描写はさすがに一つもなく、その点でも安心設計だ。
それにしても、ディズニーはいつまで変化球を投げ続けるのだろう。この路線をひとつの機軸にするのだろうか。だとすると、アナ雪もなかなか罪深いことをしたものである。
さて……そうなると、他社は逆にど真ん中の直球、王道もので逆に天下を取るチャンスである。アニメ界、今後の頂上争いが実に楽しみになる、そんな重要作「マレフィセント」であった。