「呪怨 -終わりの始まり-」70点(100点満点中)
監督:落合正幸 出演:佐々木希 青柳翔
佐々木希の存在感は佐伯母子以上
映画デビュー時からまれにみる逸材だと高く評価してきた佐々木希だが、悲しいかな女優の真価をみぬく目のない者たちにより、不当なまでの低評価を受けてきた。だが「呪怨 -終わりの始まり-」における彼女の的確かつ独自性あふれる演技は、彼らの見る目のなさを証明することになるだろう。
小学校教師の結衣(佐々木希)は、不登校の佐伯俊雄の自宅を訪ねるが、結局俊雄には会えなかった。明らかに異常性を感じた彼女は真相を知ろうとするが、それと同時に彼女の周囲にも奇妙な変化が表れ始める。はたして彼女は佐伯家の呪いとその真実に迫ることができるのだろうか。
清水崇監督の代表作を、これまたホラーの名手、落合正幸監督が引き継いだ呪怨シリーズ最新作。今回は、例の呪われた家にまつわる秘密に、あらたな奥行きが与えられることになる。
複数の時系列が並行して進むミステリドラマは、ときおり登場するショックシーンによってうまくカモフラージュされ、ラストの驚きへとつながってゆく。この構成は、非常に出来がよい。
14カ国上映決定のニュースにふさわしい、トリンドル玲奈&佐々木希のきれいどころ二本立ての豪華版だが、演技と存在感で圧倒するのは佐々木希である。
教師役ということで髪は黒、服装も白シャツに地味なセーター。全身で表現できるモデル業とは異なり、顔の表情、もっというなら目のそれだけで勝負しなくてはならない。意外にも演技力が問われる役柄である。
これを彼女はほぼ完璧にこなした。圧巻なのは呪いの家に再び舞い戻り、踏み込んでいく決意の場面。あんなおっかない家に単身立ち入り、俊雄くん虐待現場を探し回る。
ここで彼女の表情は、無表情から決意、心配、恐怖、そして驚きへとくるくる変わる。あの綺麗な顔で、一気にそれらを見せる、それだけで観客はうっとりとする。
あまりにこれらの表情に力があったので、メイクはもとよりカラコン等を使っていたのか当人に聞いたところ、この役では何も入れていないとのことだった。それを聞いて納得、これぞ主演女優のオーラというものである。
さらに驚くのはラストショットの表情。あのシチュエーションで、あの表情をもってくるとは思いも寄らなかったのだが、なんとあれは彼女自身で考えてああいう演技をしたのだそうだ。
じっさい見てみればわかるが、この直前の紅茶のショット(誰が何のため入れたのかがポイント)とこの佐々木希渾身のラスト演技は見事なまでの相乗効果を生んでおり、呪怨シリーズ屈指の情感あふれる結末を見せることになった。
これのおかげで「呪怨 -終わりの始まり-」は、シリーズ中、一二を争う傑作として人々の心に残るだろう。
普通なら主人公には誰かを助けるとか、そういう確固たる行動原理がある事が多い。だが本作のヒロインはそれが曖昧でよくわからないようになっており、そこが日本ホラー映画らしい恐ろしさを醸し出している。
かように行動目的等が不明瞭な、いわば反狂人といってもいいヒロインだが、だからといって観客の共感を拒否しない、その絶妙なラインを演じきったところを私は高く評価する。なんといっても、表情の変化が見所になってしまうほど、魅力的な顔を持つ女優というのもそうそういるものではない。
むろん、こうした評価は日本一公正といわれる私および超映画批評ならではのものであり、彼女が今回、シャワーシーンで真っ白な肌をさらしているからなどといった理由ではないことを、あえていうまでもないことではあるが念のため最後にお断りしておく。