「ウォルト・ディズニーの約束」80点(100点満点中)
監督:ジョン・リー・ハンコック 出演:エマ・トンプソン トム・ハンクス

感動の裏話もの

映画界の巨人ディズニーには膨大な作品アーカイブがある。きっとその一本一本にはそれぞれ興味深いトリビアがあるのだろう。だがこれまで彼らはそうした自社の裏舞台ものには手を出してこなかった。

ディズニーランドでは園内の二カ所で同時にミッキーが現れることは無いそうだが、「舞台裏」を隠し続けるのがある意味社風のこの映画会社で、初めて作られた内幕ものが「ウォルト・ディズニーの約束」だ。

61年のハリウッド。業界一の権力を持つとさえいわれたディズニー社長のウォルト(トム・ハンクス)は、しかし20年来、映画化を説得できない相手がいた。それが「メアリー・ポピンズ」の原作者で、自他ともに認める頑固者P.L.トラヴァース(エマ・トンプソン)。このたび彼女を英国からようやく招くことに成功したウォルトは、ここぞとばかりにゴージャスなもてなしで迎えるのだが……。

ミュージカル映画の傑作の裏に、これほどのドラマがあったとは。これなら映画にしたくなる気持ちも分かるというもの。しかも社の創立者ウォルトをトム・ハンクス、原作者をエマ・トンプソンのアカデミー賞コンビが演じる鉄壁の布陣。王者ディズニーらしい余裕あふれるゴージャス感、である。

しかもこの映画は自虐的なギャグ満載で、ディズニーファンがみたら爆笑確実。ディズニーグッズもディズニーランドもトラヴァースの毒舌にかかればけちょんけちょんで、彼らが自社の映画で自社文化をよくぞここまで落とせるなあと驚かされる。

トム・ハンクスにいたっては、ウォルトがヘビースモーカーだったことを表現するため自ら上層部と交渉し、あえて喫煙シーンを挿入させたほどの入れ込みよう。しかも、そのシーンも含め見終われば誰もがウォルトを愛し、尊敬し、そんな彼が作り上げたディズニー帝国ラブになるという仕組みである。

それというのもこの映画には、原作者と製作者の理想の関係が描かれているからで、当時の(たぶんに演出された)朴訥とした映画製作風景ののどかさとあいまって、誰もが共感できるようになっている。もしこんな風に作られているとしたら、ディズニー映画を愛さない理由などないではないかと、そういうわけだ。

そんなわけでおわってみれば結局いつものようにうまく乗せられてしまった感を感じるものの、それでも本作がすぐれた人間ドラマであることに違いはない。

トラヴァースが原作に込めた少女時代の思い、トラウマ、それが映画にどう反映されているのか。最初と最後に流れるチム・チム・チェリーのせつない旋律が、暖かな感動を与えてくれる佳作である。

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これも自虐もの。
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スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャスが結構くせになる。


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