「オー!ファーザー」70点(100点満点中)
監督:藤井道人 出演:岡田将生 忽那汐里

伊坂ミステリをうまく映像化

伊坂幸太郎のミステリは、映画の原作としては大人気で、これまでも「ゴールデンスランバー」(2009)、「アヒルと鴨のコインロッカー」(2006)など9本が映画化されている。だが、個人的にはこの作家の世界観は、実写映画とは相性がよくないではと考えている。

高校生の由紀夫(岡田将生)は、母親が妊娠したころ4股していたせいで、いまだに4人の自称"父親"と家族として同居している。6人は今では仲が良く、とくに父親たちの由紀夫への愛情は強固だった。そんな折、由紀夫が誘拐される事件が起こり、4人の父親は団結して息子を探す戦いを始める。

伊坂幸太郎の世界観をそのまま実写にすると、現実感のない突飛さが悪目立ちして興ざめすることが少なくない。愛読者は気づきにくいが、映画だけ見ているといったいこれの何が面白いのかさっぱり、と 感じる人も少なくあるまい。

映画化している側もそうした難しさは承知しているから、あえてナンセンス度を高めてみたり、オフビートなムードにしてみたりといろいろやっている。だがそうした変化球はなかなか決まるものではない。

その点、藤井道人監督は、ベテラン監督とは違うフレッシュな、あたかも勢い任せのような作風で突っ走り、この難関を乗り切っていった。数有る伊坂幸太郎原作の映画化の中でも「オー!ファーザー」は白眉である。

その雰囲気をあえて説明するなら、ベテラン俳優を存分に使った自主映画といった趣。ここは監督が下手に気取らず、背伸びせず、今あるもので堂々と撮りきったことが大きい。そうした心構えというのは案外伝わるもので、結果としてそのポジティブが、伊坂幸太郎の原作の世界観の難所である「薄めの現実感」をいい具合に実写映画の上で慣らすことに繋がった。

計算というより偶然といった印象が強いものの、監督は原作者とは違った形で独自の世界観を確立した。微妙なアホさ加減で笑わせながら、必然性のないトリックや無理のある伏線を成立させるための舞台装置を作り上げた。ここが難しいのである。

貴重な資源である美人を不幸にしないため、一妻多夫制を推進する私としても、最後のセリフには大笑させてもらった。本当にいい女を知るものなら、だれもが共感するオチといえるだろう。ともあれ、さわやかな父子愛の映画として、おすすめしたい。

オー!ファーザー (新潮文庫)
原作小説になります。


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