「8月の家族たち」75点(100点満点中)
監督:ジョン・ウェルズ 出演:メリル・ストリープ ジュリア・ロバーツ
どうしようもない連中にも本物の愛がある
この映画のパンフレットや公式サイトには登場人物の相関図が掲載されているが、その理由は見終わったあとにわかる。後から眺めると、なるほどなと色々考えさせられる。
夫が失踪したバイオレット(メリル・ストリープ)の住む家に、一族が次々と集まってくる。長女のバーバラ(ジュリア・ロバーツ)は母親の世話を妹アイビーに押し付けながら、夫(ユアン・マクレガー)とうまくいかない負い目を抱えたまま。次女アイビー(ジュリアンヌ・ニコルソン)はいまだ独身という不遇。能天気な三女カレン(ジュリエット・ルイス)は、しかし誰が見ても怪しげな男を連れてきた。問題だらけの一家の人間関係は、まさに一触即発の様相を呈していた。
初期ガンの化学療法により口内が始終痛み続ける主人公は、とてつもない口の悪さで悪態をつきまくる。アメリカ映画は口の悪いキャラがしょっちゅう出てくるが、それにしてもバイオレットの罵倒っぷりはあまりにスゴくて、観客は圧倒される。もちろん、これは演じる女優の演技力が物凄いわけである。のっけから、メリル・ストリープ劇場というわけだ。
この底意地の悪いキャラクターを彼女の演技力にくわえ、ジョン・ウェルズ監督(「カンパニー・メン」)の的確な演出が底上げする。たとえば厳粛な場でとつぜん間抜けな携帯メロディが流れたりなど、イラっとさせる描写を繰り返し、人物間のフラストレーションを極限まで高めていく。それば本作の大いなる見所、親族一同の会食シークエンスへとつながっていく。
多少の緊張感はあれど、穏やかに始まるこのシーン。ところがバイオレットがジャブのように出席者をイビリはじめるとやがてリミッターはあっという間に振り切れる。不倫に浮気、不実な肉欲……気まずすぎる暴露合戦が始まり、みなが形だけでもつくろっていたその場の結界一気に崩れさる。ジュリア・ロバーツとメリル・ストリープ初共演の期待に十分こたえる名馬面である。
どこの親族にも多少はあるであろうビミョーにかみ合わない空気を誇張して笑わせる映画だが、それだけが魅力ではない。そうしたドロドロの人間関係の中にもキラリと光る家族愛こそが最大のポイント。とくに息子をかばう父親の場面などは、胸動かされる感動がある。
血のつながりというものについて考えさせられる展開も、破滅一歩手前で希望を感じさせる道筋が見えたりする。そうした危ういバランスの中、観客をスリルと安堵の間で遠慮なく振り回してくれる。
衝撃の真相は、ラストシーンをふくめていくつかの疑問をあえてはっきりとさせずに終幕するが、よくよく考えればたぶんこちら、という回答が出せるし、それが気持ちのいい鑑賞後感を感じさせる仕組みになっている。
さてそこで、再びパンフレットの相関図を見直してみよう。色々な意味で、満足度の高い演劇的ドラマといえるだろう。