「ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!」55点(100点満点中)
監督:エドガー・ライト 出演:サイモン・ペッグ ニック・フロスト
ビールでも飲みながら
あらすじからは、ただのおバカえいがにしかみえない「ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!」は、しかしそう単純なものではない。だが、あえてそうした先入観をもってみる程度がちょうどいい。
イギリス郊外で生まれ育ったゲイリー・キング(サイモン・ペッグ)は、学生時代に失敗した12軒のバーのはしごに再び挑戦しようとかつての悪友たちを招集した。すでにアラフォーとなった中年男たちのバカげた挑戦が、いま再び始まる。
大して笑えないし、笑わそうともしていない。なんだこりゃ、と観客は戸惑うだろう。逆に言えば、この序盤を大笑いしている人よりは、そんな違和感を持った観客はするどい。やがて4軒目のバーから、ストーリーは仰天の大転換をみせる。
そこから先はまったく予想もつかない話なので存分に翻弄されるのが良い。それこそビールでも片手に、「なんだこのおかしな映画は」と思いながらみていればよい。
あまり詳しいことはネタバレになるので言わない。元ネタがあるが、映画好きなら題名を言うだけでそうなってしまうから、それも書かない。
そのかわり、このおかしな後半の解釈に役立ちそうなことを書いておく。何かの参考になれば幸いである。
さて、この映画を作ったエドガー・ライト監督にははっきりとした特徴がある。それは、個性的な奴やちょっとだめな奴が生きにくい現代社会へのアンチテーゼ、というべきテーマである。
今回は『ショーン・オブ・ザ・デッド』(04年)、2作目の『ホット・ファズ -俺たちスーパーポリスメン!-』(07年)に続く3部作のラスト(物語につながりがあるわけではない)に相当することもあり、そのテーマがかなり過激に描かれる。
あまりに極論すぎて、前2作よりも共感を集められないのではないかとさえ思うほどだ。あるいは、2作品についてきた大ファンに対してならこのくらいは、との狙いもあるだろう。
この映画でこの監督はいったい、どういう世の中を提案するのか。あの連中がやってきたのがあの年代という設定だから、それ以前は今より良かったと考えているのか。
だが、要素要素ではいい部分もあるだろうが、「いい時代」などというものが、はたして過去にあったのか疑問である。
今の時代、多くの人が感じる息苦しさ、集団の中での疎外感のようなものは、確かにあるだろう。だがそうした人々も、ガラガラポンを望んではいまい。彼らが求めるのは公平さであり、制度の改良すなわち不公正の是正である。
そう考えると、やはり答えは現代の延長線上にあってほしいと思うのである。ビールはうまそうだが、この映画の終盤のメッセージは、ちょいと苦すぎるように思えるわけだが、さてどうだろう。