「猫侍」60点(100点満点中)
監督:山口義高 出演:北村一輝 蓮佛美沙子

猫好きは世間の非常識?

猫好きというのはやっかいなもので、われわれ犬派のように一般的な社会常識というのが通じない。たとえば楽しくデートしていても、飼い猫が心配だからなどと言ってさっさと帰る。家に遊びに行きたいと言っても、猫が怖がるからだめなどと無茶苦茶な理屈で断る。

単にこちらが嫌われているだけという噂もあるが、かように猫好きというのはお猫様最優先で生活を組み立てている。

ときは幕末、かつて百人切りと恐れられた元加賀藩・剣術指南役の斑目久太郎(北村一輝)も、いまや傘張り浪人の身。そんな彼の元、江戸で敵対する二大勢力「犬派」「猫派」の前者から、敵親分の飼い猫暗殺の依頼が入る。金に目がくらんで思わず引き受けたものの、実際に愛らしい猫を見ると……。

ごく普通の社会人が、冒頭に書いたような「猫大好き非常識ワールド」にはまりこんだらどうなるか。ましてそれが、強面の100人切り侍だったらどうなのか。そこで生まれるギャップによる笑い。猫好きならわかる、あるあるの嵐。そこが魅力の時代劇コメディーである。

演じるのが北村一輝というのが、いかにもベストキャストと言わざるを得ない。にこりともしない表情とは裏腹に、かわいい猫ちゃんにメロメロになる自分を自虐的に語るモノローグのおかしさといったらない。もちろん、数は少ないが得意の殺陣シーンの迫力はいわずもがな。小学生でも見られるコメディー映画としてはまあまあといえるだろう。

映画版では時代を越えた、いわば現代人に送る応援歌のようなメッセージも色濃く感じられるがこれもいい。

具体的には、一見なんの気苦労もなく愛くるしく生きているだけの猫から、人間はもっと学ぶことがあるんじゃないか? というものだ。努力や成長至上主義も結構だが、それであんたら幸せになってるんかい? と本作に問われて迷いなくイエスといえる人がどれだけいるだろう?

そうか、ならばいっそ猫のように、ダラダラと生きてみようじゃないか。俺たちも猫と同じ動物だ、それでもいいはずじゃないかと、そんな風に感じて日々のストレスから解放されたなら、この映画を見た意味は大いにあるだろう。

考えてみたら、猫好きのわがまま女子からだって学ぶことは多い。たとえば自分を殺して三次会四次会につきあったり、フェイスブックでいいね!を押して回ったり、LINEで既読即レスに神経を使ったり。

そんなことに貴重な精神的リソースを費やすのは、必ずしも有意義とはいえない。こちらとのデート予定までそこに入ってるのは憎たらしいが、「猫侍」が我々に教えるのも、要するにそういうことである。

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