「ホビット 竜に奪われた王国」55点(100点満点中)
監督:ピーター・ジャクソン 出演:イアン・マッケラン マーティン・フリーマン

どこまでもピントが合う世界

三部作の2作目はしっかりオチない宿命にあるが、それにしても「ホビット 竜に奪われた王国」の尻切れ感はひどい。

ホビット族のビルボ・バギンズ(マーティン・フリーマン)は、魔法使いガンダルフ(イアン・マッケラン)に誘われドワーフたち一行とともに旅を続けていた。彼らは邪悪なドラゴンが待つはなれ山に向かうが、途中でオークらの襲撃によりピンチに陥るのだった。

ドワーフの王国を取り戻す旅のくせに、ドワーフのほとんどがその他大勢扱いだったり、大ボスであるドラゴンがどこか大味で怖さを感じなかったりと、上映時間が161分もあるわりには前作同様、首を傾げるクオリティ。

ならばもっと短くしたら小学生でも楽しめるのにとか、見る側には3Dの必要性は薄いな、などと思いたくもなる。……が、このシリーズが「ロード・オブ・ザ・リング」のコンセプト、すなわち「魅力的な世界観に観客を引き込みできる限り長く滞在させる」とのツアー的側面を引き継ぐというのなら、あえて否定はしない。

また、そう考えると映画の歴史を塗り替えるHRF 3D(ハイフレームレート3D)にこだわり続けるピーター・ジャクソン監督の思いも理解できる。すなわち圧倒的に高精細なこの画面でも、構築した自らの世界観にボロが出ない自信が監督にはあるということだ。とはいえ、どこまでもピントの合うファンタジー世界というのも、どこか異様で落ち着かない気もするのだが。

最大の見所は、復活した人気キャラクター、レゴラス(オーランド・ブルーム)が大活躍する追跡シーン。樽を道具として最大限活用したこのシークエンスは、文字通り目まぐるしくて、目で追うのも大変なレゴラスのハイスピード弓矢アクション、どう撮影しているのか想像もつかないほど自由に動き回るカメラワーク等々、HRF3Dの特性をフルに生かしたすばらしいもので、強く心に残る。

上映時間が長いから、電池内蔵式の重たいメガネを採用していない劇場を選んで見に行くことをすすめたい。ストーリーを真剣に追うより、美しい景色でも見に行くつもりで楽しむ映画。そんな感じである。



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