「ニシノユキヒコの恋と冒険」30点(100点満点中)
監督:井口奈己 出演:竹野内豊 尾野真千子

男に見せたくない女の内面

多くの女たちから愛されては捨てられる男の女性遍歴を描いた「ニシノユキヒコの恋と冒険」は、そのタイトルとは裏腹に「女の子の、女の子のための、女の子が主役の映画」である。

誰が見てもモテモテなニシノ(竹野内豊)には、これまで多くの恋人、あるいは女友達がいた。美しい人妻(麻生久美子)や、別れてからも色目を使ってくる元カノ(本田翼)。職場でお気に入りの寂しそうな上司(尾野真千子)……。ほかにも出会う女性をことごとく魅了するが、そうした恋の数々は、なぜかつねに女性たちが離れていくことで終わるのだった。

主人公ニシノユキヒコの人物造形にリアリティがないことについては問題ではない。最初に幽霊としてでてくることで暗示する通り、このキャラクターは現実の男と言うよりある種のファンタジーであると宣言しているからである。

だから男性客たちは尾野真千子や成海璃子や阿川佐和子らに迫られラブラブになる主人公の姿を見ても、決して悔しがる必要はない。これはあくまで絵空事であり妄想だ。むろん、この文章は決して自分に言い聞かせているわけではない。

この映画の見所は、こうした理想の男を見るものと作るもので共有する喜びである。女性監督が、女性客らと女子会でガールズトークをするような、そんな映画である。

なお世間一般で女子会とかガールズトークなどというばあい、出席者が軒並み35オーバーだったりするが、偽装表示などと批判する気はない事をここにお断りしておく。

さて、そんな女子会映画である本作は、当然ながら男性お断り。男が共感できるポイントは皆無といってよい。だがこのガールズトークに入り込める女性にとっては、他に類を見ない愛着ある作品となる可能性もある。

具体的には、彼氏とつきあってもうまくいかず相手の変更を繰り返している女性。あるいは、つきあってはいるが、何か違う気がする。もっと別の素敵な人がいる気がする。そんな不満を抱えている女性たちがそれに当たるだろう。

この映画のニシノのように、条件がよくオンナが途切れることがないくせに、最後は女性たちに去られる男というのはたまにいる。

そういう男たちは、幸薄い女たち特有の「あたしがなんとか幸せにしてあげる」との独占的母性本能を刺激するからモテるのである。彼女たちに、男をリードしている優越感を与えているわけだ。

だから新女子が途切れることこそないが、落ち着いて考えてみれば、一人の女性に定住しない男には何かしら表からは見えない重大な欠陥があるに決まっている。だから、近寄った女性たちはたいてい、最後は痛い目に合うことになる。

そして、この映画はそういう現実から目を背けさせる効果があるので、恋愛で痛い思いをした女性たちのよき癒しとなるだろう。

こういう、女性たちの潜在的願望を露わにしたような作品をみることは、男にとっても大変に興味深い。オンナの人生ってのは大変だなあと思うと同時に、愛おしいものだなと思う。

ただ一般的には、社会人になる前に将来の伴侶を決める先行逃げ切りこそが、恋愛の王道であるという事に違いはない。だが、それに気づいた時には時すでに遅し。だから、こういう映画の需要がある。

ニシノユキヒコの恋と冒険 (新潮文庫)
原作です。現代の光源氏だそうです。


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