「ラッシュ/プライドと友情」70点(100点満点中)
監督:ロン・ハワード 出演:クリス・ヘムズワース ダニエル・ブリュール

勝ち負けではない重要なこと

男同士の戦いというのは、単純なようで奥が深い。出世競争で上に行った者が勝ちなのか。愛する女を奪い取った方が勝ちなのか。普通にみればそうかもしれないが、実際は違う。人生は複雑な重層構造であり、収入やら出世などといったものさし一つでは測定できない。その奥深さが、年齢を重ねていくとやがてわかるところがおもしろさだ。

ジェームズ・ハントとニキ・ラウダ。ドラマチックなライバル関係を迫力のレースシーンで描いた「ラッシュ/プライドと友情」をみると、そのことがよくわかる。

女好きの派手好きで、アグレッシブな走りを見せるレーサーのジェームス・ハント(クリス・ヘムズワース)は、F3大会で運命のライバル、ニキ・ラウダ(ダニエル・ブリュール)と出会う。冷静で合理主義者のニキとは正反対の性格だったが、実力が拮抗する彼らはF1の世界に入ってからもしのぎを削っていた。やがて1976年、単なる好敵手以上の確執を抱えた二人の激しい首位争いは、終盤に予想もせぬ展開を見せる。

どちらに対しても肩入れせずに描いているので、どちらかに感情移入しようとしてみると不発になりやすい。意外にもこの映画は、どちらがレースに勝つかのスリルを楽しむ映画ではない。その意味では、レース映画ですらないのかもしれない。

主人公はジェームス・ハント。だが、ライバルのニキ・ラウダにも同じくらいの魅力がある。むしろ、ストイックにレースを極め、ジェームスよりも長く勝ち続けた実績からも、能力は上とみることもできるだろう。

ではこの二人、勝利したのはラウダなのか。

最後まで映画を見て、イエス、と即答できる人はいまい。プライベートでは最悪の破局を経験したジェームス・ハントに比べ、よき妻と事故にも負けぬ強靱な精神を持ち、才能も圧倒的。なのに、観客の印象は全く違ったものになっているのではあるまいか。

ここに、この映画の深みというものがある。

重圧により嘔吐しながらも大口をたたき、失ったオンナへの愛と未練をすら、平気な顔をして隠し続ける。このハントの、精一杯に虚勢を張る姿。そこに男の格好良さというものが見えるのである。多くの男の人生はつねに虚勢を張らねばならぬものであるが、彼はそのハッタリに命を張り、何度もピンチを切り抜ける。

むろん、そんなやり方で長く勝ち続けることはできないかもしれない。本当に強い奴にはいつか敗れる。だが、それでも虚勢を張る姿がサマになる、こういう男にこそ、なってみたいものである。

繰り返しになるが、この映画では二人のどちらかに感情移入しようとしないこと。レースシーンはすばらしいが、レースの勝ち負けでドキドキするような映画ではないと知っておくこと。それが楽しむためのポイントだ。

勝ち組負け組などと、勝敗を単純に決めつけようとする現在の風潮にアンチテーゼをぶつける、そこにこそ本作最大の価値がある。それを認識した上で、ぜひ見に行っていただきたい。そうすれば、めったにない男たちの奇跡的なドラマを味わうことができるだろう。

Grand Prix 1976 " In the Details" ( Joe Honda Racing Pictorial series by HIRO No.33)
これがこの映画の舞台となった問題のレースです。


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