「マイティ・ソー/ダーク・ワールド」45点(100点満点中)
監督:アラン・テイラー 出演:クリス・ヘムズワース ナタリー・ポートマン
どうシリーズの個性を出していくか
大勢のヒーローが世界観を共有するマーベル・シネマティック・ユニバースも8作目。ようやくヒーローも出そろった感があるが、一番強いはずのソーが、一番パッとしない印象なのはなぜなのか。
アベンジャーズとして活躍、地球の危機を救ったソー(クリス・ヘムズワース)。あれから1年、今度はロンドンで謎の重力異常が起き、調査に行った恋人の物理学者ジェーン(ナタリー・ポートマン)の身にある事故が起きてしまう。彼女を救うため、ソーは自分の世界であるアスガルドへ連れていくが、その軽率な行動がアスガルドに壊滅的な危機をもたらしてしまう。
北欧神話でハンマー片手に勇ましく立つ戦神トールをモデルとするソーは、このアメコミ設定でも最強の戦神として圧倒的な戦闘力を誇る。演じるクリス・ヘムズワースの肉体もいままさに全盛期で、丸みを帯びた大胸筋に甘いマスクは、マッチョ好き女性の理想形といえるだろう。
しかし、作品自体はどこか低調である。主人公の強さに比例して、でてくる敵は宇宙規模の強大なもの、かつ舞台も惑星単位とドデカい。キャストも豪華絢爛で、子供騙しのコミック映画とは一線を画している。
だが結論として、本シリーズはそのスケール感を完全に持て余している。
そもそもわれわれ人間は、肉体的には近所のバカ犬にも劣るのであり、その意味ではバカ犬以上、どんなに強大な敵が現れようともそこから受ける恐怖感は「コイツに本気を出されたら殺される」との一点において変わらない。
だからむやみに敵を強くしたところで、それが作品の恐怖や緊張感を高めるとは限らないのである。むしろ、ヒーローとの超人的戦いを疎外感とともに眺めるだけになってしまう。
だから本作では、人間がテレポート棒を持つことで、最終決戦に重要な働きをするような脚本になっている。最近のヒーロー映画では、ただ守られるだけの米国民は流行らない。
ただしその決戦の場を、地図にちょいちょい補助線引いただけで突き止めてしまうなど、脚本のあちこちが信じられないほどテキトーである。お前たち、結構投げやりだろと思わず言いたくなる。日本市場へのアピール役・浅野忠信の、とりあえず出てもらってます的なチョイ役扱いにもゲンナリである。
はたして映画版ソーに、アイアンマンやハルクといった、強烈な魅力と個性を持つ日が来るのか。宿敵ロキは、今回ばかりはいい見せ場を演じてくれたが基本的にはかませ犬であり、もはや物語に緊張感は与えられない。
ナタリー・ポートマン演じる恋人ジェーンとの異種族愛も、どこかフレッシュさが感じられない。
これから続編として3つ目を作る場合、3つ目から見る人をどれだけ楽しませられるか。世界観とキャラクターに頼らぬストーリーづくりを果たしてできるのか。ソー・シリーズはいま、重要な岐路に立っていると感じる。