「ジャッジ!」85点(100点満点中)
監督:永井聡 出演:妻夫木聡 北川景子

世の中の仕組みムービー

大人は子供たちの前では見栄を張り、格好を付けてしまうものだ。だが、いつか社会にでる彼らに世の中の本当の姿を教えておくのもまた大人たちの役目。この映画はそんなときに使える、中学生から見られる社会の仕組みムービーである。

大手広告代理店、現通で働く若手社員、太田喜一郎(妻夫木聡)は、わがまま勝手な上司・大滝(豊川悦司)から彼の身代わりになって国際広告祭の審査員をやってこいと無謀な命令を受ける。太田は優秀な同僚社員(北川景子)をニセ妻として無理やり連れていくことに成功するが、そのミッションにはさらなる無謀な指令が秘められていたのだった。

多くの人にとって、広告業界は未知なる世界だろう。この映画の永井聡監督と脚本家の澤本嘉光はCM業界出身だから、一般の人が知ったらびっくりするようなギョーカイ特有の裏話をいくつも披露する。ちゃらんぽらんな上司による面倒な仕事の部下への丸投げ、スポンサーさまさまのカースト制度等々。それらは爆笑のギャグシーンとして大きな見所となっている。

その最たるものは序盤、ベテランCMマンが自信を持って仕上げたコマーシャルフィルムを、完成直前にろくでもない理由で大変更しろといわれるシークエンス。その常軌を逸した無茶ぶりと、惨憺たる結果については是非劇場で大笑いしてほしい。

後半は架空の国際広告祭における審査員の買収合戦に巻き込まれる主人公と、その同僚の奮闘が描かれる。主人公は純粋にすばらしいCM作品にあこがれて入社してきた男であり、はじめてそのドロドロな舞台裏を見て、それどころかその泥沼合戦に参加しなければならない状況に追い込まれて激しく葛藤する。

はたして彼は、勝つために自分も泥にまみれるのか、それともピュアな初心を貫こうとするのか。

こうしたテーマは一見ありがちではあるが、この映画はそう見えてなかなか奥が深い。

まず、広告業界を舞台とすることで、不正やインチキをカリカチュアして笑いに仕立てているが、考えてみればあらゆる業界で似たようなことはあるはずだ。オレたち広告業界だけじゃないぜ、みんなのところも多かれ少なかれあるだろう? と、この映画はそう問いかけている。

法律に触れない程度の不正など、たしかにそこいらじゅうに蔓延している。それこそ不正の自覚すらないくらいに。それが慣例という名の常識になっていたりもするだろう。この映画は、そこに注目するための舞台装置として広告業界をもってきた。新鮮であり、評価できる部分だ。

しかも脚本は凝っており、伏線のはり方は相当にうまい。最後の一票のあたりなどは、もっと絶望的な演出をすれば盛り上がるというのに、あっさり回収しすぎなくらいだ。

そしてこの「最後の一票」がまた心憎いところで、これをどういう形でどちらがゲットしたかに、本作の奥深い主張が見てとれる。

理想主義はすばらしい、だが青臭い正義を貫けばどうなったか。

トヨエツをはじめとする幾多の悪人?たちが、魅力たっぷりに描かれているのもその主張と合致する。世の中は、善悪だけではない、絶妙なバランスで成り立っているのだと、この映画はその本質を伝えようとする。

外国語台詞が多く、そこは日本語字幕になるわけなので中学生以上でないと難しいが、ラブシーンや暴力シーンもなく、子供たちと一緒に楽しむ、ちょいと辛口のお仕事ムービーとして見事な出来映え。今週のイチオシとして推薦する。

ジャッジ! (幻冬舎文庫)
実在の企業名なんかが出てくるあたりがこの映画、面白いですね。
電通と原発報道――巨大広告主と大手広告代理店によるメディア支配のしくみ
ここがモデルなんでしょうか……。


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