「大脱出」80点(100点満点中)
監督:ミカエル・ハフストローム 出演:シルヴェスター・スタローン アーノルド・シュワルツェネッガー

マッチョ二人の意外な大人向けテーマ

女囚もの含む刑務所映画はアクション映画の定番として、かつて高い人気があった。日本でも木曜洋画劇場などで楽しんだオールドファンも多いだろう。いたいけな主人公たちが一致団結、理不尽な支配や虐待に立ち向かう構図は、革命の暗喩でもあり暗い時代の労働者たちの溜飲を下げる働きがあった。

だがバリエーションのアイデアが出尽くした後、観客の間にそうした荒唐無稽を受け入れる余地は年々せばまり、今ではすっかり時代遅れとなった。l

セキュリティ対策のプロ、ブレスリン(シルベスター・スタローン)は自ら収監され脱獄することで施設の脆弱性を探る手法をとっている。だが、あるとき高額で依頼された民間の収容施設において彼は依頼者から裏切られる。外部との連絡とサポートを絶たれた彼は単独で脱出するほかなくなったが、そこでクセのありそうな囚人のボス(アーノルド・シュワルツェネッガー)と出会う。

80年代を代表する大スター二人の初のダブル主演作は、古色蒼然とした刑務所脱獄ムービーだ。キチガイ風味のサディスト所長、突拍子もない脱獄防止策といったギミックもアナクロそのもので、かえって新鮮に見えるほど。2014年の今、こんなんでいいのかと思わず心配になる。

ところがどうだろう。ちょっとした工夫によって、本作は社会風刺の効いた見応えある作品となっている。そのしっかりとした主張が背骨となって、荒唐無稽な設定もすんなりなじんでいる。マッチョでノーテンキなイメージのロートルスター競演作だが、意外や意外、大人の鑑賞に耐える一本だ。まあ、二人のファンはとっくに子供がいる年くらいにはなっているのだから、作風を大人っぽくするのは当然なのだが。

なんといっても刑務所の運営を民間軍事会社にしたアイデアがうまい。戦争のオー人事、軍隊のアウトソーシングなどと揶揄され、さんざん批判されている彼らを運営側にしたことで、看守がひどい目に遭おうとも観客は罪悪感を感じることがなくてすむ。

アメリカ人は、こいつらの利権のためばかげた戦争に引きずり込まれ、大切な息子たちを失った。事実はともかく、ある種の戦犯として彼らはそう認識されている。刑務所ものの弱点である、真面目な看守さんがひどい目に合うのはかわいそうじゃん、との問題が本作には発生していない。

と同時に、近年の米国の戦争政策への批判的メッセージにもなっていて、作品に深みを与えている。劇中、主人公たちを助けるイスラム戦士のヒロイックな扱いなどもまさにその延長線上にある。

あげく、ある人物がねらっている真の巨悪というのが、まさにタイムリーな金融ネタときた。FRBによる異次元金融緩和の出口戦略がいま話題だが、そいつを一歩誤れば国が滅びる状況にあるアメリカにとっては、これはまさに旬。むろん、アベノミクスもまったく同じ問題をはらんでいるが、気軽なアクション映画にその批判精神を込める根性のある映画人はなかなかいない。

民間軍事会社から国際金融資本まで、最近流行りの大悪党をすべてまとめてディスるという、シュワちゃんとスタローンの最強タッグふさわしい痛快作である。

唯一の問題は、予告編やマスコミ、ニュースサイトなどの映画紹介で、絶対言及してはいけない「刑務所の構造上の最大の秘密」を当たり前のようにばらしていること。

事前に観客がそれを知っていたら、興味は相当スポイルされてしまう。これは、映画をまじめに見ればわかることだ。なのになぜ、疑いもなくそんなことをするのか。

映画会社は、そういうネタは観客動員の足しになると思うから、ネタバレとは知りつつも言いたくなる。その気持ちと立場は理解できる。本国との宣伝戦略の都合もあるだろう。

だが観客のためを思って、観客側に立つべきプロの紹介者たちが平気でそれに乗っかるのは問題ではないか。宣伝会社からの資料を盲信してはいけないと普段から心がけている身としては、映画自体が佳作なだけに残念な限り。



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