「もらとりあむタマ子」35点(100点満点中)
監督:山下敦弘 出演:前田敦子 康すおん

前田敦子が物足りない

山下敦弘監督の作品を大好きと語る前田敦子は、仕事相手としてもウマが合ったのだろう。「苦役列車」(2012)に続き、その監督作に主演することになった。

大学は卒業したものの就職せず、実家で漫画を読みふけるなど無為な日々を過ごす坂井タマ子(前田敦子)。スポーツ用品店を営む父親(康すおん)は、そんな娘に強く出ることもあまりなく、淡々と食事を作ってやる。季節が移り変わり、それでも変わらぬ二人の生活に変化は訪れるのだろうか。

山下敦弘監督の映画は、物語に抑揚がなく突出したキャラクターも出ないオフビートな作風が持ち味。一般受けとは無縁の、好きな人だけ見てくださいという、いわゆるアート系、サブカル系に属する作品である。

この監督ほどにキャリアを積んでも、オリジナル脚本の映画でいまだにこうした自主映画チックな青臭いドラマを作るのはどうなのかと個人的には思うが、これがファンの求めというなら何も言うまい。

ともあれ、映画好きとして知られる前田敦子自身が好むというだけあり、その世界観に完全に溶け込んでいる様子は毎度ながらさすがといえる。

彼女がずっとこの手の作品だけに出て、興収記録やスケールの大きな作品に背を向けるというのならばこれでいいだろう。だがそれでは、きっと女優としては成長しないだろう。早くも限界値が見えている、それがこの映画における前田敦子への失望である。一流の俳優ならば必ず見せる意外性、予想を上回る何かが本作の彼女には一つもない。

コメディー演技はこうした抑揚のないドラマでなければ通じないほどに下手だし、大勢の共感をつかむ切り札的表情を持つわけでもない。脱ぐこともできない。勝負をかけるなら、居心地のいいところから立ち上がる必要があるだろう。作中のタマ子のように。

この作品は一人のニート女と、それを追い出せず放置している不器用な父親の物語。就職活動もせず、非現実的な夢を見ているダメ女が、1年以上の月日をかけて様々な出会いとちょっとした挑戦をして、現実社会に立ち戻る様子を描く。

実際は1年もひきこもればうつ病になり、事態は悪化するに決まっているのだが、映画はそうした現実のダークサイドには触れもせず、非現実的ノーテンキさに満ちている。世界設定が浮いているため、共感も教訓もないし、ドラマに深みもない。前田の演技力不足、役作り不足もあってすべてが芝居がかって見える。類型的な人物造形とシーン展開が続き、ここが見どころ!と言いにくいのも苦しいところ。

もっとも本当の意味でモラトリアムに生きているのは父親の側であることが、後半になるとわかってくる。だからどうということもないわけだが。

一つだけユニークなのは、この作品の主題たるモラトリアムが、女優・前田敦子にとっても当てはまる時期ということか。この役を「地に近い」と語る彼女は、はたして今後どんな方向へと羽ばたくのか。

なお、あっちゃんファンは、エンドロールの最後まで目を離さぬよう。



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