「ラブクラフト・ガール」30点(100点満点中)
監督:平林克理 出演:安藤聖 中村倫也

格好つけることはない

「ラブクラフト・ガール」は、女性用バイブを作っている会社が舞台という、なかなかユニークな映画で期待していたが、そのたった一つの武器を生かし切れておらず残念であった。

デザイナー志望の茜(安藤聖)は、就職情報誌の「デザイン・企画開発」の文字にひかれラブクラフト社の面接を受ける。無事採用され喜んだのもつかの間、そこはアダルトグッズを取り扱う会社であった。デザイナーはデザイナーでもいきなり女性用バイブのデザインを依頼され、茜は思考停止に陥ってしまう。

予想外に入社してしまった会社でエログッズのデザインをする羽目になる──。じつに魅力的な走り出しである。ならば最初から全力疾走、矢継ぎ早にアダルト業界と一般社会のギャップを観客に提示し、驚きと笑いの渦に巻き込むのが王道であろう。

だがこの映画には、アイデアも勢いも映画作りのテクニックも、悲しいかな足りなかった。低予算だから無理もないが、すべてにおいてパンチが足りない。いや、低予算だからこそパンチがなくてはいけないのだが……。

それにしてもこの映画のヒロインは、たかがバイブづくりにいつまで悩んでいるのだろう。現実の女の子ならそれでも仕方ないかもしれないが、これは映画で、たったの2時間しかない。現実のペースでやられては冗長に過ぎる。共感を集めるためには、もう少し早め早めに成長していただかないといけない。

オナニー経験がないから困っちゃう〜とか、本当はこんなデザインやりたくなかったとか、そんな程度でいつまでも悩んでいると観客はすぐにイラついてくる。それが映画の中の時間の速度というものだ。

だいたい主人公は前職をリストラされた身である。勘違いの入社とはいえ、少しはまじめにやったらどうかと思うのが普通である。そもそもバイブのデザインのどこが嫌なのか、面白そうではないか。デザイナー志望というくらいだから、そのくらい好奇心があってしかるべきではないのか。

バイブについてのトリビアも少なくて物足りない。アダルトグッズ会社の内幕についても、素人でも予想できる程度のレベル。せっかくこの映画は、実際にグッズを作って売っている会社が企画制作にかかわって作っているのだから、もっとネタはあるだろうと思うのだが。

あるいは、実は案外平凡な現場を知っているからこそ、過剰に「演出」することができなかったのか。ならばそこはやはり、映画作りのプロが味付けをしていかなくてはなるまい。

バイブを作ったり売ったりすることって、こんなに大変なんだ。苦労があるんだ。それを多少は大げさにあおってでも見せていかないといけない。障がい者や性マイノリティなど、深刻な思いで必要とする人たちだっているだろうし、笑いやエロ的興味から、一気にシリアスにひっくり返すことも容易な題材だと思うが。

さらに言うなら演じる側も、もっと服も心も脱ぎ捨てて、女のすべてをさらけ出すべきだ。マイナー業界ながら、世間に打って出ようという思いでこれを作ったならば、当の作る側が恥ずかしがってどうするのか。

脱いで使って、使って作って。そのみっともない繰り返しをして、それでも誇り高く見せる。それでこそ、ブラック企業がはびこるこの苦しい現代の労働者に送る価値のあるお仕事ムービーであろう。もし次があるなら、もっと思い切って脱ぎ捨てよ。そうすれば必ず道は開ける。



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