「タイガーマスク」55点(100点満点中)
監督:落合賢 出演:ウエンツ瑛士 夏菜

予算規模の割には魅せる

ウエンツ瑛士が主演でタイガーマスクを実写化する。そんな企画案を聞いて真っ先に思うのは、プロレスシーンをどうするつもりなんだ、という点であろう。その後、ビジュアルイメージで全身を衣装で覆ったタイガーマスクの姿が発表されたときは、なるほどこれなら身体を見せずにすむよね、と妙な説得力を感じた人も多いはずだ。本物の初代タイガーだっていまや全身タイツだし、まあいいかと、そんなところだ。

ミスターXお手製のマスクをつけると潜在能力の多くが引き出され、超人的な戦いを繰り広げる。そんな虎の穴の戦士として頭角を現してきた伊達直人(ウエンツ瑛士)。児童養護施設ちびっこハウスで育った彼は、それでも優しい心を失わずにいたが、あるとき非道なやり方で親友を奪われてしまう。

この映画を実際に見て驚いたのは、そもそもプロレス設定が消え去っているということだ。考えてみれば、初の実写版タイガーマスクとはいうものの、佐山タイガーの一連の活躍こそが実写版そのものと考えているファンは多い。いまさら普通に映画にしたところで、その二番煎じは免れない。そんな作り手の認識は、確かに間違ってはいまい。

そこで、石仮面方式というか、とてつもないパワーアップの力を秘めたマスクをかぶる地下闘技という設定に変更した。なるほどこれなら演者の肉体の不足などもまったく問題はなくなる。

実際その戦いぶりは、佐山タイガーを彷彿とさせる有名技は盛り込んであるもののワイヤーアクション等を駆使した映画的なもの。地下闘技ということになれば照明が暗いのも、観客の姿が少ないのも問題はない。予算の都合もクリヤーできる。いいことづくめである。

問題は、低予算で映画館での鑑賞に堪える見せ場をとれる監督がいるかどうかだが、新鋭・落合賢監督は十分その期待に応えたといってよい。アメリカ留学、ハリウッド仕込みの絵作りへのこだわりは、シネスコサイズの画面のあちこちに散見できる。おそらくとる人によっては、安っぽいVシネ程度になったかもしれない事を考えると、大健闘といえるだろう。

脚本は荒すぎるし終盤の盛り上がりにも欠けるが、このバトルシーンがなかなか良いので何とかみられる。

主題は「情けは弱者が持つもの、とにかく強くなれ」というもの。それでも伊達直人は人を助け、仲間を助けようとする。愛と優しさ、思いやり。そこに人々は強く惹かれる。思わずランドセルを買って送ってしまいたくなるくらい、他人に影響を与えている。原作最大の魅力だ。

これは、弱肉強食格差固定の現代社会にこそ説得力をもって語られるテーマと思うので、そこをもうちょい強調してほしかったところ。

キャストにアクの強い面々が並んでいるのが面白いところ。哀川翔はいかにもだが、立ち位置がよくわからないことばかりしゃべる釈由美子や、さすがに声のインパクトが絶大な平野綾、画面映りがいまいちな夏菜あたりが印象に残った。

原作の魅力は変化球でなく王道なので、本来は大予算で奇をてらわずやってほしいところだが、監督は続編にも意欲満々。この予算規模でどこまで堂々たる作品を作れるか、再び注目したいところ。



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