「ニューヨーク・バーグドルフ 魔法のデパート」60点(100点満点中)
監督:マシュー・ミーレー

おもしろいが、業界人やよほど興味ある人以外には厳しい

デパートのドキュメンタリーとはなんとも珍しいが、この映画で描かれるデパートはなにからなにまで規格はずれ。アメリカが誇る最高級デパートことバーグドルフグッドマン。本作は、その紹介映像だが、ファッション好きにはたまらないことだろう。

バーグドルフグッドマンは、NYの老舗百貨店にしてあらゆるデザイナーがテナントを望むステイタスシンボルである。その審査はきわめて厳しく、ここに店を構えられればなによりの信用となる。とくに新興ブランドにとってみれば未来を約束されたようなもので、ある種のアメリカンドリームの到達点ともいえる。

もっとも、そうした予備知識なくでかけても、あなたがファッション好きならばそこそこ楽しめる映画である。ファッション映画のひな形通りというべき、派手な音楽にテンポのいい編集、めまぐるしく動くカメラ。これぞスタイリッシュでござい、といわばんかりの、見るのに体力がいるポップな映像美。椅子に座っているだけで心がうきうきしてくるだろう。

そこに登場するのは、マーク・ジェイコブス、ジョルジオ・アルマーニ、カール・ラガーフェルド、クリスチャン・ルブタンといった業界の著名人たち。ほかにも名だたるセレブリティや、当のデパート関係者など。そんな彼らがこの百貨店をひたすら絶賛し続けるという、一歩間違えばカルト宗教のプロモーションムービーかと見まがうコンセプトだ。

語られるエピソードもぶっとんでいて、外商人が一日40万ドル売り上げるとか、超有名なあの歌手が一晩で250万ドル分の毛皮を買ったとか、販売員も50万ドル以上の年収があるとか、常軌を逸した内容ばかり。アメリカの富裕層というものが、どういう次元の買い物をしているのかがよくわかり、圧倒されてしまう。

歴史ある高級デパートの凄みある姿は、確かに興味深いし驚きに満ちている。服飾文化史の、あるいは文化財の保存としての意味合いもこめたのかもしれない。国家としての歴史が浅いアメリカ人にとっては、これが誇りですらあるのだろう。

だが、そうではない日本人あるいは欧州からみれば、しょせんはこれもブランドストーリーの一つにすぎない。あるいはビジネスモデルの成功例の一つに数えられる程度の話か。

それを礼賛する名だたるセレブや、誇らしげに自分の仕事ぶりを紹介する従業員をみていると、ちょっと切ないような、哀れむような気持ちになってしまうのもまた事実だったりする。

なにしろ、あまりに自画自賛が長く続くので、さすがに飽きてくる。このコンセプトならば、せいぜい30分程度にまとめてほしい。それが一般人の本音だろう。

とはいえ、資本主義の頂点にいる人たちの言葉は、ビジネス関係者や上昇志向の高い若者たちには多くのヒントとモチベーションアップを与えてくれるに違いない。

逆に、この映画をみてもやる気がでない、むしろ斜に構えて皮肉の一つも言いたくなるという場合、その人の人生はすでに帰り道となっている事を危惧したほうがよいだろう。念のため、私自身のことを指しているわけでは断じてない。

デパートを発明した夫婦 (講談社現代新書)
こっちも映画になりそうだな。
リッツ・カールトンが大切にする サービスを超える瞬間
接客も奥が深いね。


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