「蠢動 -しゅんどう-」85点(100点満点中)
監督:三上康雄 出演:平岳大 若林豪

とんでもない情熱の1本

映画というものは多かれ少なかれ、作り手の情熱がこもっているものだが、「蠢動 -しゅんどう-」はおそらく今年公開される内外すべての映画の中で、もっとも熱い情熱を注がれた映画作品である。出来映えもすこぶるよく、まさに渾身の1本と呼ぶにふさわしい。

山陰の因幡藩は飢饉からなんとか一息ついたところであった。ところがそんな折、幕府から派遣された剣術指南役の松宮(目黒祐樹)が怪しげな調査を繰り返しているとの報が城代家老のもとに入った。隠し田の存在などを幕府に知られれば、藩存続の危機。いまや藩は追い詰められ、非情な選択を迫られつつあった。

三上監督は30年来の夢である本作を作るため、3代続いた自らの会社を売り払った。そうして準備した製作費で一流のスタッフをそろえ、キャストを集めて斬り合いの訓練を施し、数十年間練りに練った渾身の脚本を映像化した。

クライマックスに準備される、あるひとつの音をのぞき音楽は無し。彩度を極限まで落とした独自の映像美、徹底されたサウンドデザイン。そのすべては、映画館でみるために施されたものだ。

スマホの動画配信サイトで映画を見る人が増えているというが、そんなチンケなもので映画を見た気になるなと、なまっちょろい風潮を吹き飛ばす、ものすごい気概のこもったこれぞ映画である。

むろん、いくらやる気や情熱があってもダメななものはダメなのが現実。悲しいかな映画づくりには能力とセンスが必要である。

ところがその点も本作は問題無しで、自主映画の経験豊富な三上監督が数十年ぶりに作った映画のわりには、メジャー邦画の時代劇をはるかに上回るクォリティである。

雪原の戦闘は、製作費高騰の原因となる馬やセットを使わないですむための苦肉のアイデアだと思うが、彩度の低い色調整がここで効いており、じつに美しく印象的な画面となっている。殺陣も、見栄え重視ではなく多人数戦における疲労感を演出するなど新鮮味がある。

主人公を演じる平岳大の所作もさすがに美しく、これぞ本物の時代劇、と快哉を叫ぶオールドファンの姿が見えるようだ。あらゆるところに本格時代劇への愛着が強く感じられ、演出に妥協の跡はみられない。工夫をすれば限られた予算でもここまでできるという、まさに見本だ。

唯一気になるのは、いかに追い込まれていたとはいえあんなにバレバレの謀殺をわざわざ命じるものだろうかという点である。

結果的には使者を納得させられるものの、不可抗力によるタナボタみたいなもので、最初から計算していたわけではあるまい。ほかに手はなかったのかとの観客の疑問を、もう少しスマートに処理できていたらなおスッキリしたのだが。

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三上監督が目指した映画。


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