「人類資金」40点(100点満点中)
監督:阪本順治 出演:佐藤浩市 香取慎吾

タイムリーな経済ネタ

時事性を高めようとすれば製作スピードをあげるほかはなく、それは質の低下につながる。映画は時代を映す鏡とはいうものの、実際は「タイムラグがある鏡」というのが現状である。

いまどきM資金詐欺を生業とする詐欺師の真舟(佐藤浩市)に、石(森山未來)という青年が接触してきた。彼が紹介した本庄(岸部一徳)は、真舟に50億円の報酬で、とんでもない詐欺の依頼をもちかける。それは、本物のM資金をだまし取れというものだった。

映画「人類資金」は脚本と原作を同時進行、最新の経済情勢をもストーリーにとりこんだ意欲作である。原作脚本は福井晴敏、監督は阪本順治と「亡国のイージス」(05年)と同じ骨太な布陣だ。

旧日本軍の遺産たる10兆円ものM資金を使い、国際(=ユダヤ)金融資本と対決する。要するに、戦後彼らに搾取し続けられた日本人による、大東亜戦争のリベンジ。企画のおもしろさとタイムリーさだけは、毎度ながら大したものだ。

とくにアベノミクス政策と国際金融資本の意志のリンクを看破し、批判的にとらえている点はすばらしい。登場時はえらくもてはやされており、誰も聞く耳は持たなかったが、私レベルであればあんなものは最初からインチキだとわかっていた。消費税増税にいたり、今更ながらようやく世間も保守のプリンスの正体に気づき始めてきたようだが、タイムラグがある映画づくりでこの批判的論調をいち早く採用したのは、なかなかの先見の明といえるだろう。

ただ悲しいかなこの映画はその鋭い批判精神が、あらゆるつっこみ不足、細部の荒っぽさによって台無しになっている。ようは、批判するための論理武装が不十分で、荒唐無稽さ、オカルトさばかり際立って見えるということ。

とくに、さんざん謎めかして見せた資金の使い道が、肩すかしもいいところ。あんなものを準備したところで、利用するためのインフラは誰が誰の金で整備するというのだろう。各人の維持費は誰が払うのか。貧乏人割引で永遠に無料か?

この世は国際金融資本によりゆがめられている。それを批判する手段として「10兆円もの隠し金をもって愛国者が戦いを挑んだら?」とのシミュレーションを本作は行った。

ならばもう少し知恵を絞って、本当にこれをやれればあいつらを倒せるかもしれない、と夢を抱かせるくらいでなくては駄目だ。それが無い点が、この映画の致命的なマイナス部分である。

スケールの大きな話に海外ロケによる映像、アクションシーンをダンサーならではの華麗な身のこなしでこなした森山未來など、ところどころ光る部分はあれど、詰めが余りにも甘い。邦画としては異例言っていい意欲的な挑戦だったが、これが限界というなら残念きわまりない。

人類資金1 (講談社文庫)
全7巻予定だったかな。
M資金―知られざる地下金融の世界 (1980年) (Nikkei neo books)
10兆円あればなあ。


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