「レッド・ドーン」35点(100点満点中)
監督:ダン・ブラッドリー 出演:クリス・ヘムズワース ジョシュ・ペック

ダメダメかもしれないが必見

「アバター」(09年、米)の続編をはじめ、近年のアメリカ映画は中国との合作企画が目白押し。中国市場における外国映画の公開本数制限をかいくぐる裏ワザとして中国資本を入れる意味合いもあるし、もちろん潤沢な中国マネーで大作を作るという単純な狙いもある。なにしろ政府が機能停止したり国債デフォルト一歩手前なんていう時代だ、金をくれるなら誰でもいいといったところか。

大国アメリカにしてこんな状況だから、「レッド・ドーン」が中国マネーに配慮して、撮影終了後に侵略国を中国から北朝鮮に変更したと聞いてもそれほどの驚きはないだろう。

ワシントン州の田舎町に、空を埋め尽くす空挺部隊が現れた。休暇中の海兵隊員ジェド(クリス・ヘムズワース)は、危険を察知して弟(ジョシュ・ペック)や友人数名を救い出し、山へと身を隠す。直後、アメリカ全土は彼ら北朝鮮兵によって制圧され、ジェドらは最初のレジスタンスとして立ち上がることになる。

1984年の「若き勇者たち」を9.11後の現代に設定変更してリメイクした戦争青春ドラマ。冷戦期の戦争ものらしくアメリカを侵略する敵国はソ連だったが、こちらは北朝鮮となっている。

CGで中国国旗を北朝鮮のそれにしたりと、わざわざ1億円もの追加費用を払ってまで無理矢理変更したため、映画はぼろぼろである。

ジャガイモ豊作で喜んでいる北朝鮮軍ごときがアメリカを占領できるはずがないし、そのための秘密兵器も、それを阻止するキーアイテムも荒唐無稽すぎる設定。あんなトイザらスに売っているおもちゃのようなもので、アメリカ様が屈服するはずがない。

だが逆に、この映画の敵役が元々中国だったと思ってみると、色々とおもしろくなってくるから不思議である。見ている前で親を射殺する残虐さなどは、まさに現在進行形でチベットその他でかの国がやっていること。気合いの入った批判精神あふれる映画だったことがわかるだろう。

そもそも、特定の国に配慮して撮影後にわざわざシナリオ設定を変更した映画なんてものを見る機会はそうそうない。これぞ、時代を映す貴重な一本である。いずれ近い将来バブルがはじけて中国が没落した暁には、「信じられない時代があったねえ」と皆懐かしがることうけあいだ。

「世界を従えてきたアメリカが占領される」主題は、「相手の立場を考える」という重要な問題提起になれたのではと思う人がいるかもしれない。劇中、イスラム戦士やベトコンの戦術を参考に戦おう、と主人公が語る場面などは思わずハッとさせられるし、そういう部分にこそ、この時代にリメイクする必然性のヒントがあったようにも思う。

だがそれとて、中国批判というそれ以上にタイムリーなテーマが失われたからこそ浮き上がって見えてきただけの話。そもそもそういう反省映画は数年前にブームが過ぎている。

完成が2009年なので、「マイティ・ソー」でブレイクしたクリス・ヘムズワースの筋肉がまだ細めでナチュラルな印象。完成が延び延びになり、前述したトラブルもあって今頃公開されたおかげだが、ファンには貴重な映像だろう。

戦争映画としては、設定の荒唐無稽さに比べて映像は本格的で、決して飽きることはない。色々と楽しむ部分の多い、悲運の作品といえそうだ。



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