「TRASHED-ゴミ地球の代償-」55点(100点満点中)
監督:キャンディダ・ブレイディ 出演:ジェレミー・アイアンズ

消費者レベルでできることはあまりない

公開中の「もったいない!」といい、ゴミ問題の映画が花盛りである。いまや、世界に名だたる放射性ゴミ排出国家に落ちぶれてしまったこの日本で、こういう公開ブームが起きるのもやむなし。ここは謙虚にお・も・て・な・し、の心で歓迎するべきであろう。

廃棄食品にスポットを当てた「もったいない!」と比べ、こちらはもう少し広い意味での廃棄物、ゴミ問題を追いかける。世界中に存在するこうした話題を集めて紹介し、こちらをたっぷりと絶望させたあとに、いくらかの画期的な挑戦を紹介することでほのかな希望をいだかせる。社会問題ドキュメンタリーとしては王道のつくりである。

驚くのは、まるでパニック大作かアクション映画のようなオープニング。本編も出ずっぱりで各地を取材して回る名優・ジェレミー・アイアンズのナレーションがじつにシブい。さらに、エイリアンか何かの大規模侵略を受け人類は壊滅寸前……なんてシチュエーションを思わせるスリリングなスコアは、なんと「南極物語」(1983)や「ブレードランナー」(1982)、「炎のランナー」(1981)でおなじみのヴァンゲリスときた。根本的にドキュメンタリー映画の人選じゃないだろうと、思わず苦笑する。

最初にでてくる海岸がまたとんでもないもので、海岸というからには砂浜があるかとおもいきや、見渡す限り全部ゴミ。なんだここはと思ったら、35年間もここで換金ゴミを探して生計を立てている人物が、昔は地面が見えたが今は40メートルは積もってる、などと素っ頓狂な証言を始める。これはもう、ゴミなんて言葉で表せるスケールではないと、誰もが仰天するつかみである。ここはレバノンのある海岸だということだ。

ゴミ風景なら中国だけ取材しておけば十分な気もするが、この映画はこうして様々な地域のゴミと付随する問題を紹介する。

目を引いたのは、近くの住民が語る汚染水漏れの実態。通常の数千倍の汚染をさすがに環境庁も認めたが、「ただちに健康に害はない」ということだそうな。がん患者だって増えているのに、因果関係を認めず追加調査しろで終わり。

こんなむちゃくちゃを言うのは後進国だけかと思いきや、スコットランドで起こした裁判のケースもガンとの因果関係は認められずに住民側は敗訴。

こうした有害物質は、蓄積して20から30年後に被害が出始めるという。いったいどこの未来の福島の話かと、誰もがウンザリするに違いない。因果関係を認めずほっかむりを決め込むなんてあたりは、とくにそうだ。この国の公害史を見れば、ことごとくそうした無責任対応を取ってきたことがすぐにわかる。

映画に戻るが、それにしてもジェレミー・アイアンズは、町長や環境省、被害者等、あらゆる取材先に臆せず出向き、物静かながらいい話を聞き出してくる。静かなマイケル・ムーアというべき活躍ぶりである。

そんなわけで、思わずメモを取りたくなるネタが多数だが、ちょいと裏付けに乏しいのが不満を感じるところ。

そもそもゴミ問題は、とくに日本の場合は消費者レベルで気を付けてどうにかできる話ではない。知り合いの女性に、スーパーでパック精肉を買うと、その場で開梱してロールのポリ袋に肉だけ入れ替え、トレーとラップは捨ててくる猛者がいるが、これとて若くて美人だから許される所業であろう。

普通の人がスーパーで買い物をすればもれなく過剰包装がついてくるし、そうして自炊をすれば毎回相当なゴミが出る。野菜や肉を、よけいな包装無しのばら売りしてくれる店は少ない。

我々一般消費者だってどうにか事態を好転させてやりたいが、無力感ばかりがつのるというのが現実である。こうした視点を踏まえ、それでもできることを提案してくれる映画を見てみたいものだが。



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