「地獄でなぜ悪い」60点(100点満点中)
監督:園子温 出演:國村隼 堤真一

二階堂ふみフェチの映画

映画監督の中には、一貫して同じ態度で映画作りを続ける者もいる。だがそんな彼らとて、突然息抜きのように、毛色の異なる作品を発表することがある。原発問題や東日本大震災、自殺問題など、社会派のテーマで映画作りを続けてきた園子温監督による、この娯楽一本やりなアクション映画「地獄でなぜ悪い」も、まさにそんな一本である。

池上(堤真一)率いるライバルの組と抗争を続けるヤクザの武藤(國村隼)。彼は愛する妻がシャバに戻る日を前にいま、焦りを感じていた。なぜなら彼女は元子役CMタレントの娘(二階堂ふみ)が主演する映画を武藤が制作していると思い込んでおり、それだけを希望に日々過ごしていたからだ。万策尽きかけた武藤の前に現れた平田(長谷川博己)は、実際はただの映画マニアだったがこれをチャンスととらえ、とんでもない映画の企画を武藤に話し始める。

かつて人気を博したCM子役の愛らしさに魅せられた男たちと、成長した彼女に魅せられた男たち。彼らがハチャメチャな争いを繰り広げる、問答無用の暴力アクションコメディである。

アクションシーンは安っぽい人形から血が噴き出すといったB級Z級的な演出で彩られ、グロいながらもブラックな笑いが止まらない。いわばチープな和製「キル・ビル」といったところ。任侠モノ+ホラー+映画好き若者の青春ドラマをごちゃ混ぜにしたのを想像すると少しは分かりやすい。

それにしても、本物ヤクザの殺し合いを映画に撮ってしまえとは、じつにシュールな展開である。「みなさんが抗争で死にまくるところを撮影させてくださーい」なんて現実にヤクザに言おうものなら、自分の方が東京湾の海底でセシウム汚泥と抗争するハメになってもおかしくない。

そんな荒唐無稽を成立させる理由として存在する劇中要素は、ヒロインの魅力、ただそれ一点。

あれだけの設定をそんな力技で押し通せると信じているのだから、この監督はよほど二階堂ふみという女優を気に入っていて、もう好きで好きでたまらないという事なのだろう。いわゆるミューズ、などと表現されるアレである。おいお前ら、これだけ魅力ある女なら、俺のぶっ飛んだストーリーにも信憑性が生まれるだろ? というわけだ。

じっさい彼女は、胸元が大きく開いたトップスにお尻が見えそうなホットパンツで、とてつもないエロスを振りまいている。想像をはるかに超える、たゆたゆな胸肉の量と深い谷間は、これまで二階堂ふみを意識していなかった人々を振り返らせるに十分なインパクト。

床に転んだ彼女の、半尻を狙うようなアングルのショット等々、まさにサービス満載である。ただしそれが、観客向けのサービスにはどうしても思えないところがこの映画最大のポイントである。意図的かどうかは知らないが、この妄想エロ世界は、カメラを構えている側のためにある。

意外なエロボディと極道キャラのギャップ、いつも何か叫んでいる必死感。園子温がこれまでちらほらと繰り返してきた理想の女像。それに対する己の欲求をついに大爆発させた、まさに監督の私的なエンターテイメントと私は受け止めた。彼のファンにとっては、きっと記念碑的作品となるだろう。

なお特筆すべき事項として、脇を支える男優たちがしっかりしている点を挙げたい。國村隼も堤真一も長谷川博己もいい演技をしている。頭のねじが外れたバカ演技に見えてその実、きっちりと計算して抑制されたアンサンブルを奏でている。これは本当にすごいことだ。



連絡は前田有一(webmaster@maeda-y.com 映画批評家)まで
©2003 by Yuichi Maeda. All rights reserved.