「甘い鞭」65点(100点満点中)
2013年9/21(土)丸の内 TOEI 他全国ロードショー 2013/日本/カラー/ビスタビジョン/118分 配給:角川書店
監督・脚本: 石井隆 原作: 大石圭(角川ホラー文庫) キャスト:壇蜜 間宮夕貴 中野剛 屋敷紘子 中山峻 伊藤洋三郎 中島ひろ子 竹中直人

見どころは壇蜜の裸だけじゃない

本作の3ヶ月前に撮影した「私の奴隷になりなさい」(12年、日)で大ブレイクした壇蜜の最新作「甘い鞭」。公開こそ「私の奴隷になりなさい」の約1年後となったが、内容の過激さは勝るとも劣らずで、ご期待の壇蜜のハダカも、今となってはいい具合にプレミア感が感じられる。

女医の奈緒子(壇蜜)には、会員制SMクラブのM嬢というもう一つの顔があった。思春期の頃の体験によるトラウマがその背景としてあるのだが、それでも彼女は自らの性癖のすべてを理解していなかった。夜な夜なサディストの客の相手をしながらその謎を解き明かそうとする彼女は、しかし予想だにせぬ運命に巻き込まれてゆく。

悲惨な事件の被害者となったヒロインの話という事で、エロより前にグロさ、凄惨さが印象的なビジュアルとなった映画である。17歳時代を演じる間宮夕貴もぴちぴちの見事な身体を見せてくれるが、熾烈な暴力行為に遭いあっという間に血だらけ傷だらけになってしまう。

一方の壇蜜も、ノーマルな観客にとっては痛々しいむち打ちなどサディズムにさらされる場面の数々を、ときに血だらけで演じている。いずれも、まじめな女優たちにとっては相当きつい現場だったろうと想像する。

さて、女医でありながらM嬢などをやっている理解困難なヒロインの内面だが、それを見たこちらの先入観を崩すのが竹中直人演じるサディスト客が「おまえがSをやれ」と命じる場面。奈緒子が、上司たる「女王様」を鞭打つうち、何かに覚醒する様子は大いに見ごたえがある。誰よりM衣装が似合う壇蜜だからこそ、の迫力である。

ここは本作きっての名場面で、予想もしない命令に戸惑いつつも追いつめられる女王様役・屋敷紘子の狼狽ぶりが実にリアル。気丈なレズビアンたるこのS嬢が裸にむかれ、ふくよかな壇蜜と対照的なごつごつと痩せた肢体をあらわにする流れは、とんでもないインパクトである。

Mだと思っていた壇蜜こと奈緒子は、本当はSだったのか。あの事件の恐怖と絶望を、快感に変えることで彼女は耐えてきたのか。それとも……?

「花と蛇」シリーズなどSM映画はお手の者の石井隆監督だが、女性たちをこよなく愛し尊重する視線と、意外なほどまっとうな道徳感は本作でも健在。変態を描いていても、変態道には決して落ちない。だからこその安定感、安心感ある出来映え。知性を持って対峙すれば、エロスは人間の心の深淵を覗く強力な武器になるという、これぞまさに見本である。

ただし、この映画の最後で明らかになるヒロインの謎、「彼女は何によってどう変わったのか」がイマイチわかりにくいのはいただけない。ただでさえ通常の人間には実感しにくいものなのだから、もう一段ほど踏み込んだ描写がほしい。その上で一気にひっくり返して観客の先入観をあざやかに裏切る形にすればなおよかった。

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強気の価格設定。とてもえろい。
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壇蜜が17歳になるとこんな裸になるそうです。こっちのほうが個人的には……。


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