「キャプテンハーロック」70点(100点満点中)
SPACE PIRATE CAPTAIN HARLOCK 2013年9月7日(土)全国ロードショー 2013年/日本/カラー/約115分/
原作総設定:松本零士 監督:荒牧伸志 脚本:福井晴敏、竹内清人 メカデザイン:竹内敦志 声の出演:小栗旬 三浦春馬 蒼井優 古田新太 福田綾乃 森川智之 坂本真綾

変更多いが違和感はさほどなし

東映アニメーションとしては史上最大の製作費をつぎ込んだ「キャプテンハーロック」は、第三者から見ると大きな賭けであった。米国ではともかく2D全盛の日本では受けがいいとは言えない3DCGアニメ、それも実写志向である点、あまりにも有名すぎる原作である(つまり熱烈なファンが多い)点、知名度重視の有名人キャスティングと、地雷要素が多数見受けられたからである。

遠い未来、広大な宇宙を開拓した人類はやがて地球への帰還を望むようになった。そんなエゴがカムホーム戦争とよばれる争いを引き起こすが、地球を聖地として立ち入り規制することで決着した。それから100年、地球統治機構が不倶戴天の敵と認める宇宙海賊アルカディア号の艦長ハーロック(小栗旬)が新規乗組員を募集しているのを見て、彼らは暗殺者を送り込む。

さて、このリスキーな企画は初登場2位(1位は「風立ちぬ」)という大健闘によって関係者をまずはホッとさせた。

なにしろアニメありきで企画された原作だけあって、声優やテーマ曲ひとつひとつに熱烈なこだわりを持つファンが多い。今回ハーロックを演じるのは小栗旬だが、相当なプレッシャーがあったはずだ。

ところがこれが実にはまっていて、原作のイメージを損なうことはない。オーバーアクト気味な渋い声も悪くない。そもそもアニメから実写風CGになった時点で、声優やらなにやら多少のバージョンアップが行われるのは予想されていたことで、人にもよるが許容範囲といったところではないか。

とはいえ、トリさんの忠実なるデザインに比して副長ヤッタランの激変ぶりには思わず笑いが出てしまう。原作の副長はどんなピンチでもプラモデルばかり作っている中年ニートのような男であったが、このCG版のそれは、男くさいスーパーヒーローの域である。似ている者もそうでないものも、松本アニメらしくキャラが立っている。

メカ的な設定もいろいろと変わっているが、主に海外市場向けの、わかりやすいSFアクションと考えると合点がいく。なにしろ連中に昭和的呑兵衛なキャラクターとハイテク宇宙戦艦の組み合わせの妙を理解できるとは思えない。

ネットなどなく、与えられる情報から想像力で楽しむ時代に生まれた作品の魅力。そんなものを感じ取れるだけでも、今どきの若者にも見てほしい一本である。

未完のSFだからいじりやすい部分もあるのだろうが、さらに思い切って何かテーマ性をはっきりさせたらなおよかった。上映中は面白くみられるし、原作ファンからみても変更箇所の多さの割にはさほどの違和感はない。ただ、せっかくなのだから映画版ならではの良さ、アピールをしてほしい。



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