「タイピスト!」70点(100点満点中)
POPULAIRE 2013年8/17(土)より ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次ロードショー! 20102年/フランス/カラー/111分 配給:ギャガ
監督:レジス・ロワンサル 撮影監督:ギョーム・シフマン キャスト:ロマン・デュリス デボラ・フランソワ

オンナノコのスポ根映画

スポ根映画の雛形で女の子の自己実現物語を描く「タイピスト!」は、いますぐ元気になりたい女の子にぴったりな、おしゃれでレトロなエンターテイメントである。

1950年代のフランス。人気職業の秘書になりたい田舎娘のローズ(デボラ・フランソワ)は、必死のアピールで保険会社に就職するが、わずか1週間で経営者のルイ(ロマン・デュリス)に首を言い渡される。しかし彼女唯一の才能である早打ちタイプの選手権で優勝すれば話は別、と持ちかけられる。

世間知らずで怖いもの知らずの純朴田舎娘が、かっこいい上司に才能を見いだされ、住み込み特訓を受けてタイピング大会に挑む。なんとまあ都合のいい職場があったものだと思わせるお気楽設定である。

「対等に扱ってくれる男性が好き」とのセリフにもあるとおり、ウーマンリブ的な思想背景が見られるのも特徴で、その意味からもターゲットは(社会で)認められたい女性、とはっきりしている映画である。

レトロなファッションの数々も、画面の色合いも気合いを入れて美しく調整してあるので、フェミっぽい彼女はもちろん、オサレな女子を誘うのにもぴったり。そのうえ男性が見てもそれなりに楽しめるという、きわめて使い勝手の良い一本である。

血反吐を吐くようなランニングにピアノレッスンと、苦しい割にどう考えてもタイプ速度向上には役立ちそうにない特訓シーン、悪ふざけかと思うような濃いキャラの対戦相手たち、大げさな選手名コール等々、ロッキーをはじめとするスポ根ものをパロディにした構成、演出が楽しい。

しかもこれが単なる思い付きではなく、よく研究されている。たとえばこの手のジャンルは、予選から決勝まで特訓→勝利の繰り返しになりがち。一番快感を得られるはずの勝利シーンが結果的に繰り返されてしまうことで、最後の感動が薄くなるのが平凡なスポ根映画の陥る失敗パターンである。ところが本作では途中の重要な勝利場面をバッサリカットすることでそれを避けている。よくわかっている証拠だ。

それにしても、女の子とは認めてもらいたい生物。この映画にはその欲求を満たしてくれる気持ちよさがある。すべてのショットは(彼女たちにとって)美しく、どこを切り取ってもポスターに使えそう。自然ではなく、あくまでつくりこまれた美しさだが、それこそが映画の醍醐味といわんばかり。タイピングなんて地味素材でも調理で生きる。それを実証した形だ。

「運命の最終テスト」〜ワープロ・日本語に挑んだ若者たち ―開拓者精神、市場を制す (プロジェクトX〜挑戦者たち〜)
日本じゃワープロ検定、ですかね。
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これで特訓しましょう。キーボードがもうちょい大きければなあ。


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