「ホワイトハウス・ダウン」40点(100点満点中)
White House Down 2013年8月16日(金)より丸の内ルーブル他全国ロードショー 2013年/日本/カラー/137分/配給:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
監督:ローランド・エメリッヒ 製作:ブラッドリー・J・フィッシャー、ハラルド・クローサー、ジェームズ・バンダービルト、ラリー・フランコ、レータ・カログリディス 製作総指揮:ウテ・エメリッヒ、チャニング・テイタム、リード・キャロリン 脚本:ジェームズ・バンダービルト キャスト:チャニング・テイタム ジェイミー・フォックス マギー・ギレンホール

登場人物がおバカさんばかり

アメリカは巨大な国なので、「アメリカ」と一緒くたにして語るのは本来あまり意味がない。景気一つとっても、極端にいいところと自治体が破産するようなところがまだら模様に存在している。ハリウッドは好調でもシカゴは死にかけ。そんな容赦ない落差の国というのが本質である。

警察官のジョン(チャニング・テイタム)は大統領(ジェイミー・フォックス)警護官になるのが夢だがなかなか面接試験に合格できずにいた。そんな折、官邸マニアの娘を連れホワイトハウス見学にやってくるが、テロリストの襲撃を受け離れ離れになってしまう。

さて、そうはいっても米国民の共通認識のようなものもあるわけで、それは「そろそろ国内テロもありうるよね」との予感だったりする。だからホワイトハウス襲撃映画が別会社で同時に作られたりするわけだが、その一つ「エンド・オブ・ホワイトハウス」(13年、米)に比べるとこいつは相当落ちる。

監督はローランド・エメリッヒ。「インデペンデンス・デイ」(96年、米)などホワイトハウス壊しのプロフェッショナルで、アメリカ破壊描写には定評がある。当然期待は高まるが、肝心の派手さすらアチラに負け気味。テロリストがハウス内で武器を現地調達する展開はなかなかリアルでいいが、いきなりガンシップで大虐殺を始めるアチラのインパクトにはかなわない。

とはいえ、その地味な序盤の展開が一番ハラハラさせられるというのもまた皮肉。民間人見学中にこんなことが起きたら怖いね、起きるかもしれないねとの実感がわくのがその理由か。

脚本は冗談みたいなテキトーさで、ご都合主義と細部の整合性不足に満ちている。

たとえば世界壊滅を阻止するべく出撃したF-22ラプター戦闘機が、かわいい女の子を見て急におセンチになって爆撃をやめるとか、どこのナウシカかと思うようなお花畑展開である。懐中時計の伏線も、いくらなんでもそういう形で使うことはないよねと登場時に思った通りのオチ。こういうのはオマージュとは呼ばない。

二人で逃げまくる主人公と大統領がピンチに冗談を言いあうバディムービーの雛形にしたのも、悪い意味で深刻な舞台設定とのギャップを生んでおり、どこか安っぽい。

まるで危機が去っていないのにいちいち皆で一喜一憂する大げさな演出にも萎え萎え。でてくる人物がことごとくおバカさんで、こんな人たちが実際にアメリカを運営していたらと、思わず不安になる効果すらある。

こういう作品だから、テーマである軍産複合体批判もむしろ逆プロパガンダの様相を呈している。オバマ大統領にとっても、こういう精度の悪い援護射撃はお荷物でしかあるまい。



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