「オーガストウォーズ」70点(100点満点中)
Avgust. Vosmogo 2013年8月10日(土)渋谷TOEIほか全国順次ロードショー 2012年/ロシア/シネマスコープ/ドルビーデジタル/132分/カラー/翻訳:狩野亨/配給:ブロードメディア・スタジオ
監督:ジャニック・ファイジエフ 撮影:セルゲイ・トロフィモフ キャスト:スベトラーナ・イバーノブナ エゴール・ベロエフ マクシム・マトベーエフ

母は息子のために、息子は母のために

アメリカ製日本風ロボット映画「パシフィック・リム」が話題だが、「オーガストウォーズ」はそのロシア版……というふれこみではあるのだが、これはむしろロシア版「ライフ・イズ・ビューティフル」(97年、伊)。感動的な、そしてまじめな戦争映画である。

08年8月。5歳の少年チョーマ(アルチョム・ファディエフ)は別居中の父親がいる南オセチアに向かった。ところが突然グルジア軍が進攻、再開の地は最前線となってしまう。それをニュースで知った母親(スヴェトラーナ・イワノーワ)は、無謀にも徒手空拳で現地へと向かう。

ロシア映画としては真新しいVFXによるロボットアクションがまずは目を引く。これらは物語のキーとなる幼い息子、ロボット好きのチョーマが目前の過酷すぎる戦争=現実を脳内でファンタジーに変換した映像である。敵軍は凶悪なロボット、それに対抗する正義のヒーローは……。

本作は現実に起きたグルジア紛争を背景とする物語だが、そこにこうした幼児の視点を織り交ぜることで、現実の悲惨さを浮き彫りにする。それは明確な演出意図を感じさせる。

さて、こうして息子が一人がんばっているところへ、必死に母親が向かおうとする。力も知識もなんにもない。戦場では何の力も発揮できないか弱き民間人である。着の身着のままで銃弾が飛び交う最前線を走る。どう考えても絶望を禁じ得ない。

ところがどっこい、この美人ミニスカママがおそるべき粘りを見せるのである。むろん一人では一歩も進めないわけだが、彼女は息子への愛と持ち前の素直さで、周りの人々、すなわち屈強な男たちに悪びれず助けを求め、その助言と手助けを頼りに戦いの中心点へと立ち向かっていく。彼女の予想外のがんばりが、この映画最大の面白さであり痛快さ、である。

これはじつに象徴的な展開である。というのも、彼女を助ける男たちは決して彼女の美脚に目を奪われたから助けた、というわけではない。彼らは軍人や戦士でありながらも、それ以前に母親思いの息子たちであり、このヒロインと彼女を手助けする男たちの関係は、そのまま普遍的なメタファーとなっているのである。このことは、彼女が出会う最後の助言者とのある名場面において明らかになる。

現実離れしているほどに親切な人ばかりがでてくるこのストーリーは、あまりにも世知辛い現実をみてきた人々が作るからこそ説得力のあるファンタジー。母子愛の前では敵味方すらないのだという作り手の強い理想は、言う人によってはしらけてしまうテーマだがこの場合は素直に感動できる。

素直といえばヒロインの、親切はすべて受け入れる素直さも気持ちがいい。どんな立場の男たちに対しても、彼女は尊敬の念を持っているように見えるし、じっさい協力者たちの一部が命を落とした後も、その教えを守り続けることで再び彼女は救われる。力ではなく愛、信頼によって彼女はサバイバルするということだ。

歴史にはなっていない新しい紛争を題材にしているため、当事者の国民の中にはプロパガンダだと拒否する人もいそうだが、日本人が見る分には特段の悪影響はないように思う。よくできた戦争映画としておすすめしたい。

 
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