「ワールド・ウォーZ」70点(100点満点中)
2013年8月10日(土) 全国超拡大ロードショー 2013年/アメリカ/カラー/116分/配給:東宝東和
監督:マーク・フォースター 原作:マックス・ブルックス 脚本:マシュー・マイケル・カーナハン キャスト:ブラッド・ピット ミレイユ・イーノス ジェームズ・バッジ・デール マシュー・フォックス

リア充安心の新鮮なゾンビ映画

ゾンビ映画というのは「オタクの、オタクによるオタクのための」ジャンルというべきものだが、超A級スター=ブラッドピット主演のゾンビ映画大作「ワールド・ウォーZ」は、きわめて珍しいアンチオタクな作りになっている。

元国連捜査官のジェリー(ブラッド・ピット)は、人間をゾンビ化するウィルス感染者に目の前で遭遇する。その後彼は、世界的規模で拡大するウィルス汚染の対策を、伝染病防疫に関する専門的技能に期待され命じられる。人類を、そして何より愛する家族を守るため、米軍の庇護を受け各国を回るジェリーだが……。

血しぶきの量や飛び方、肉片を喰らうエグさを熱く語る映画オタクは蚊帳の外。今夏一番大勢の人間が死ぬ映画だというのに、その手の残虐シーンはオールカット。ファミリーで安心してみられる、家族愛の物語になっている。

このコンセプトがいかに徹底しているかは、序盤の展開をみるとよくわかる。ここでは明らかに調子に乗っているオタクキャラが、真っ先にみっともない死に方をする。通常この手のキャラは、作り手の自己投影というべき偏愛からしぶとく生き残るものだが、それを真っ先に否定しているわけである。と同時に、本作の想定メイン客層であるリア充たちの爆笑を誘っている。

主人公は、飛行機が落ちようが重傷を負おうがゾンビと肉弾戦を繰り広げようがびくともしない超人。元国連職員という職業のほかに元スティーブン・セガールとか元チャック・ノリスといった経歴があるのかと思うほどパワフルだ。

まあ、演じるのがブラピなのだから当然といえば当然だが、これが多少の緊張感をそぐものの、スリルを完全に失うまでにいたらないのは大したもの。イスラエルにおけるアクションシーンは絶望感を誘う見事なものだし、ゾンビウィルスを根絶するためのオチも、弱者に優しい万人向け仕様でわかりやすい。

なによりオタク層を完全排除した作りは、家族連れやカップルにとっては安心安全。オマージュとエログロと内輪ウケを排除しても面白い映画を作れてこそ、本物である。そしてそのコンセプトがうまく定石外しになっている副次的効果もある。

オタクな評論家筋がいろいろとうるさいことを言ったりけなしたりする作品とは思うが、そんな雑音を気にすることはない。リア充なみなさんならVIPエリアに案内された気分を味わえる、貴重なゾンビ映画である。



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