「終戦のエンペラー」90点(100点満点中)
Emperor 2013年7月27日(土)より、全国公開 2013年/日本・アメリカ/カラー/107分/配給:松竹
監督:ピーター・ウェーバー 脚本:デヴィッド・クラス、ヴェラ・ブラシ 製作:奈良橋陽子、ゲイリー・フォスター、野村祐人、ラス・クラスノフ 原作:岡本嗣郎 キャスト:マシュー・フォックス トミー・リー・ジョーンズ 初音映莉子 西田敏行 羽田昌義 夏八木勲 桃井かおり 伊武雅刀 片岡孝太郎

すべてを圧倒する昭和天皇

参院選で自民党が圧勝し、改憲論議さえ巻き起こっている昨今。GHQの影響濃い現憲法を改正することは、米国による支配からのっ、卒業ぉ……。というわけだが、そんな懐かしのヒットソングのように上手くいくはずがないとは思うものの、それにしても終戦直後のGHQはいったい占領地の日本で何をしていたのか。とくに天皇に対してどのような影響力を発揮したのか、そこに特化して描いた「終戦のエンペラー」は、なかなかユニークな戦争映画といえる。

1945年8月、占領地である日本にやってきたダグラス・マッカーサー(トミー・リー・ジョーンズ)は部下で知日派のフェラーズ准将(マシュー・フォックス)に特命を与えた。それは10日間以内に、日本国内の戦争責任者が誰なのか、具体的には天皇にその責任があるのかないのかを調査し結論を出せというものだった。フェラーズはかつての恋人アヤ(初音映莉子)の行方も調べられる好機と引き受けたものの、日本の複雑な権力構造と、宗教的ともいえる天皇への国民感情への理解の困難から、調査は難航を極めるのだった。

この映画のキモはクライマックスのマッカーサーと天皇の対面シーンにある。それまでは日本の高官やら何やらの、言い訳じみた御説のハギレを並べるばかりで、正直退屈すら感じる。天皇に責任があるという人たちの言葉は何一つ心に響かないし、逆に天皇擁護派のそれもしかり。意外性のある史実の発掘もなく、このまま映画は終わるのかと思わせた。

ところがこの対面シーンですべての謎が解ける。西田敏行演じる大将がいうところの「本音と建前を持つ日本人の忠誠心の源は信奉で、それを理解すればすべてわかる」との言葉の意味が、この一瞬で全観客に知れる。退屈なそこまでの90分は伏線であり、すべてはこの場面の圧倒的感動のためにあった。

ここでトミーリー演じるマッカーサーが「信奉」の意味をしった瞬間の表情と演技、これは素晴らしいものがあった。その後の態度は、彼がその信奉者にすら一瞬でなったことがわかるものである。そのなんと爽快なことよ。だがこれは勝利感ではない、理解されたことの喜びといったものである。アメリカ映画もついにここまで来たか。というより、今の日本映画界で天皇と日本人の関係をここまで的確に描ける人材がいるのか、ほとほと怪しいものがある。それほどに本作の考察は適切で、説得力がある。

この場面で全登場人物を圧倒した昭和天皇役の片岡孝太郎は、出番は少ないがもっとも重要な役柄を見事に演じた。二人の演技合戦を彩る音楽も、引きのカメラも上手かった。

「終戦のエンペラー」は歴史ミステリで、当時を表現したセットは素晴らしいが特段のアクションなどがあるわけではないから、歴史に興味がない人には厳しい。だが、興味がある人にとっては、この時代の歴史を描いた映画がいかにダメ揃いかわかっているはずで、そういう人が見たらあまりにまっとうな映画が、それもアメリカからやってきたということで本当にうれしくなるはずだ。その価値がわかる人にとって本作は、歴史に残る一本となることは疑いない。

個人的にはマッカーサーが善人に描かれすぎな点が気になる部分ではあるのだが、そこは本題ではないので許すとしよう。何しろ現実の彼は、男系存続のキーである宮家を廃止することで、数十年後に皇室(男系)が自然に滅びるよう仕組んだ張本人なのだから。その、アメリカが日本に仕掛けた最大の時限爆弾についても、そろそろ誰かが問題提起する必要があるだろうが、それはまた次の話に。

終戦のエンペラー 陛下をお救いなさいまし (集英社文庫)
原作です。
ウィンズ・オブ・ゴッド [DVD]
この監督の奈良橋陽子さんがプロデューサーとしてリードしたのが勝因でしょうね。


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