「爆心 長崎の空」40点(100点満点中)
2013年7月13日(土)〜19日(金) 岩波ホールプレミア特別上映 7月13日(土)〜 TOHOシネマズ長崎/ユナイテッドシネマ長崎 先行ロードショー 7月20日(土)〜 東劇/ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次ロードショー 2013年/日本/カラー/ビスタサイズ/98分 配給:パル企画
原作:青来有一『爆心』 監督:日向寺太郎 音楽:小曽根真 脚本:原田裕文 キャスト:北乃きい  稲森いずみ 柳楽優弥 渡辺美奈代 佐野史郎 池脇千鶴 石橋蓮司

北乃はもっと濡れ場を真面目に演じるべき

長崎や広島を舞台にすると、多くの場合原爆がモチーフというか背景としてでてくるが、それがうまく機能した例を私はあまりみたことがない。

女子大生の清水(北乃きい)は、あるとき最愛の母を突然失う。いざこざを抱えたまま彼氏とのデートを優先したことでぬぐえぬトラウマとなってしまった彼女は、同じように深い心の傷から立ち直れない女性(稲森いずみ)と出会う。彼女は1年前に子供を亡くした悲しみから立ち直る前に、再び妊娠が発覚して精神の平衡を失いつつあった。

谷崎潤一郎賞の連作短編集をベースにした感動ドラマ。

見ていると、早い段階で北乃きいの濡れ場がでてきて面食らうが、特段の露出はもちろんなし。演技のほうも、キミは私生活でセックスしたことがないのかと言いたくなる無機質さ。彼氏と愛し合うってのは、そんなに未知なる演技かね。

もっともこれだけでは、ちゃんと出すものを出してないから厳しい評価を与えているなどと、あらぬ誤解をする読者がいるかもしれないので書いておくが、この場面は後に重要な意味を持ってくるものであり、投げやりな演技ですましていいものではない。大好きな彼氏に愛される喜びと快楽を、なにより最優先でむさぼる様子を表現しなくては、その後のトラウマに説得力が生まれてこない。

一方もう一人のヒロイン稲森いずみはさすがに安定しているが、それでも注文は残る。たとえば妊娠が発覚するつわりの場面などは、まじめにやる気があるのかとあきれるレベル。タッタカターと洗面所に走っていって、流し台に向かって1秒「うえー」。

せめて便器のふたをこじ開けて頭をつっこむくらいできないのかと思う。嘔吐したくて流し台に向かう人を、私はみたことがない。

こういう真摯なドラマは、ほんの些細な芝居じみた嘘で興ざめしてしまうから、もう少し丁寧に演出、演技してほしいと思う次第である。

さて、それはともかく、本作はようするに、子を失った母とその逆、母を失った子が出会い、何かが起きるというドラマである。はたして見失った未来への道を見いだせるのか、その再生の過程で人間賛歌をするのだろうと、そこに観客は期待をする。

ただそれだけではドラマに厚みがないので長崎が舞台となるわけだが、その必然性というものが本作にはうまく組み込まれていないように思える。ヒロインの生い立ちにちょっとした仕掛けがあってそこに絡んでくるとはいえ、それだけでは弱い。

一瞬で世界が消えることの意味を、もっと想像を上回る衝撃で伝えてほしいと思うのである。それがこの物語の肝でもあろうし、そこに全アイデアと魂を注ぎ込めないのなら、原爆なんぞを出してくるのはよしてほしいとさえ思ってしまう。



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