「アフター・アース」65点(100点満点中)
2013年6月21日(金)丸の内ピカデリーほか全国ロードショー 2013年/アメリカ/カラー/100分/配給:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
監督:M・ナイト・シャマラン 脚本:ゲイリー・ウィッタ、M・ナイト・シャマラン キャスト ウィル・スミス ジェイデン・スミス

「ファミリー」映画

本国の批評家筋からはひどい評価で、興行収入の伸び悩んでいる「アフター・アース」だが、期待すべき点を間違えなければそれなりにイケる。

西暦3072年、人類はすでに他の惑星に移住し高度文明を築いている。恐怖を感じた時のフェロモンを察知する究極の生物兵器アーサに対し、恐怖心を克服することで勝利した伝説の将軍サイファ(ウィル・スミス)は、息子キタイ(ジェイデン・スミス)を連れ最後の任務に出る。一匹のアーサと兵士たちを積み込んだ宇宙船で、ある星に向かい軍事演習を行う予定だったが、彼らは予期せぬトラブルに遭遇。傷ついた宇宙船は、人類が離れて久しい「地球」へと不時着する。

オカルト色が強く一般からは敬遠されがちな上、どんでん返し脚本を期待されることを嫌がったのだろう。M・ナイト・シャマラン監督作品であることをあえて強調せぬマーケティングだがこれは正解。と同時に消費者にとっても親切な配慮といえる。

というのもこの映画は、上記の2点については、とりあえず忘れてみていただいた方が楽しめる作品だから。

逆に、本作に期待してはいけないのは、超大作らしい迫力のスペクタクルとか大パニックとか、そういうスケールの大きなあれこれ。たしかに大予算をつぎ込んだ大作ではあるのだが、ポスターやCMの印象とは異なり、一本道のスリラー、あるいはサスペンスのようなものと認識したほうがよい。

ウィル・スミスは早々にアクション担当を降りてしまうし、あと画面に映るのは親子共演の息子のほうがほとんどだ。

そして本作のスリルのすべては、時間までに目的地までに到着できるかという点。そして追跡してくる恐ろしい怪物に見つからずに進めるかの2点しかない。雛形じたいは、むしろ超低予算のモンスター映画、あるいはゾンビなどホラー映画に近い。

逆に言えば、たったそれだけのネタで最後までおもしろく見せるのだから、過剰な期待をしなければ十分、というわけだ。

もともと本作は、ハリウッド一の親バカことウィル・スミスが「オイラの息子にぴったりな話思いついた」と始めた企画。それにプロデューサーの奥さん(ジェイダ・ピンケット・スミス)姉弟を巻き込んで作り上げたスミス家の「ファミリー」映画だ。トホホな出来になる要素満載だから、アメリカの批評家たちもここぞとばかりにけなしているが、そんなものを参考にする必要はない。連中は弱いものだといつも安心して総だたきにする。

いつもニコニコ、公平きわまる私にいわせれば、この映画は確かにダメ映画候補の筆頭だったが、その割にはよく頑張った。息子はしっかりトレーニングされているのがよくわかる身の軽さだし、それなりにスター性もかんじられる。1000年後の地球人がパルクールの動きで走っているのは笑えるが、道中ドキドキはらはら、週末の娯楽としては十分だ。

それにしても、アーサが恐怖を察知して攻撃してくるという設定はユニークだ。すなわち、恐怖を克服したものだけが高みにいける。ゴルゴ13でさえ「臆病だから生き残った」と語っているのに、ずいぶんと傲慢な考え方ではないか。どこかあやしげな宗教じみた主張でもあり、そこだけが少々違和感が残るものの、「ファミリー」映画にうるさくいっても仕方があるまい。

ほかにも突っ込みどころは数多い。

たとえばメイン武器が、どう考えてもこの強大な敵に適した作りとは思えないテッカマンブレード一つというのも苦笑もの。これだけ文明が進歩しているのに、もうちとマシなものはねえのかよと思うこと請け合いである。あんなちゃちなもので化け物と戦えといわれたら座頭市でも逃げる。

ほかにも、息子が持っている安心キッズケータイが圏外になったときの行動も笑いどころ。いくらなんでもそこに向かう選択だけはないだろうと思わず脳内でツッコミが入る。

だが、それすらもなんだか愛おしい。愛はすべての矛盾を越える。ウィル・スミス父子のそれもまたしかり、なのである。



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